たまたま、経済学者のblogをチェックしてたら、一橋大学で「貧困にどう立ち向かうか-一橋エコノミストの提言-」というシンポジウムが12月2日開かれることを知りました。ざっとプログラムを見ると、川口大司さんの「最低賃金の貧困対策としての有効性」という実証研究が目に留りました。経済学者の間では、最低賃金の導入は、労働市場が競争的な場合、雇用を減らす、特に、設定される最低賃金以下で働いている、救済を最も必要とする人々の雇用を奪う、と不評な政策です。
しかし、実証的には最低賃金政策の雇用への効果は自明ではありません。最低賃金と雇用の微妙な関係に関しては、有名な論争があります。Card and Kruger(1994)が論争の種なのですが、そこではニュージャージー州の最低賃金の引き上げが雇用を減らすという仮説を統計的に棄却し、逆に雇用を増やすという意外な実証結果を報告しています。その論文では、電話アンケートという形でニュージャージー州とお隣のペンシルベニア州のハンバーガーショップの賃金と雇用のデータを、最低賃金政策が施行される前と後の時期のデータを集め、その期間の雇用の変化を州の間で比較しています。いわゆる計量経済学で言う所の「差の差(Difference in Difference)」の検定です。その比較から前述の意外な効果の「統計的に有意」な結果を導き出しました。
それに対しNeumark and Wascher(2000)は、同地域のハンバーガーショップの賃金台帳(payroll record)を元に再検証すると、最低賃金政策の雇用への負の「統計的に有意」な効果が得られる、とCard and Krugerの結論に反証を突きつけます。Card and Kruger(2000)では再反論が展開され、Neumark and Wascherでは雇用の計測の仕方が違う(悪い)から違う結果が出ている、そこを修正したら賃金台帳のデータを使っても、「ニュージャージー州の最低賃金の引き上げが雇用を減らした」という仮説はやっぱり統計的に棄却される、と主張します。(ただし、雇用への正の効果の主張は取り下げて、少しトーンダウンしています。)という具合に微妙なんです。ランダム化実験が流行るのもわかるでしょ。実際に観察されるデータを用いた分析だと、データの取り扱い、分析のメソッドで結果が変わってきてしまうことが良くあるんです。この欲求不満が、今の開発経済でのフィールド実験の流行に繋がっています。
で、ふと「ケニアに最低賃金ってあるのだろうか」と思ってググってみると、ありました。ケニアでは最低賃金法の実効力はほとんどない思われますが、少なくとも形式的には存在しているんですね。Daily Nationの今年の5月1日(メーデー)の記事で紹介されていました。労働大臣がケニアの最低賃金をあげるとメーデーのイベントで宣言して、大衆から喝采を受けたようです。ちなみに、最低賃金(月額)は農業で3,043シリング(約40米ドル)、ナイロビ・モンバサ・キスム(ケニアの主要都市)の一般の職種で6,130シリング(約81米ドル)だそうです。
7月にリフトバレーとニヤンザへ調査に言った時の聞き取りだと、農村での賃労働は草取り半日(朝から昼まで、約4−5時間)でだいたい70−100シリングでした。多くは最低賃金以下で働いています。さて、もし仮に、ここに実効力のある最低賃金が導入されたらどうなるでしょう?
こんにちは。お久しぶりです!
返信削除ロスバニョス出張所の駐在員です。
ご報告が遅れましたが、7月に無事博士号を取得して、
当出張所に派遣されました。
私もhkonoさんのブログ経由できて、
興味深く拝読しています。
更新楽しみにしています!
遅ればせながら博士号取得、就職おめでとうございます。タンザニアのプロジェクトをやっているそうですね。今度機会があればタンザニアの調査地を見学させて下さい。スワヒリ語はもう結構いけるのかな?Unaweza kusema kiswahili? Nilianza kusema miwezi tano iliopita. Lakini si nzuri.
返信削除ありがとうございます!
返信削除タンザニアにお立ち寄りの際は、
ぜひ声をかけて下さい!
と言っても、普段はフィリピンにいますが。。
スワヒリ語はまだまだで、名前と
Natoka Taasisi ya Kimataifa ya Utafiti wa Mpunga
(スペルは自信なし)しか言えません。。