2010/10/14

民間セクターが担う農業普及活動

少し前の話になるが、ケニアのWestern県とNyanza県に視察旅行に出かけた時に、Oyugis*でユニークな活動をしている農業インプット販売店(agrovetもしくはstockistと呼ばれている)の店主(Mr. Innocent)に出会った。店は地方の販売店には珍しく、綺麗に整理整頓されていて、奥に接客用のスペースまであった。雰囲気が少し他の販売店とは違うなと思いつつ、店主に色々話を聞いてみると、経営面で面白い話が幾つも出てきた。忘れないうちに記録しておきたいと思う。

彼は店の近所に小さい実験圃場を設置して、そこで新しいインプットや農業技術のデモンストレーションをしていている。時には販売する種子や肥料(あるいは農法)を使う区画と使わない区画を隣り合った場所に設置し、収量を比較するといった対照実験も行っているそうだ。その圃場に月2回程顧客を招待しワークショップを開き技術指導を行い、紹介した種子・化学品・肥料などを販売している。

民間セクターでは種子メーカーや流通業者が、商品の販促のためにデモンストレーション農園で技術指導を行う事はあるが、個人経営の販売店が独自に行っているケースは珍しく、驚いた。私が知っているのは高々ウガンダとケニアの事情だが、小売店の農業普及活動はBBCのWeb記事以外聞いたことが無かった。しかも、商売として成立し顧客も増えているそうで、中々やるもんだと感心した。

現代の農業技術は高収量種や化学薬品などの商品に体化しているものが多いので、技術普及が商品の販売と直接結びつくケースが多い。だから商品の販売促進のため、メーカーや販売店が普及活動をするインセンティブはある。ただし、普及活動がメーカーであれば自社製品の販売に、販売店であれば自分の店での販売に繋がらなければならない。普及活動をしても参加した農家が、他のメーカーの似たような商品を買ったり、他の販売店の商品を買ったりしては、利益に繋がらず、意味が無いからだ。だから、メーカーが自社製品を売るためには製品の差別化が必要で、メーカーが実施する普及活動ではその製品の違いをアピールしている。一方、製品の差別化が出来ない販売店では、Innocentの店で行っている様に、顧客登録をしてもらい顧客の囲い込みが必要である。顧客を囲い込むためには、ある程度顔の見える関係を築くこと大事なので、Oyugisがあまり大きな街でないのも、成功している理由かもしれない。

販売店による普及活動と商品販売の抱き合わせのビジネスモデルの成功ケースを見ると、逆に、何故これまでやられていなかったんだろう、また、何で他の店はやらないんだろうという疑問が湧く。

これまでこうした販売店がなかった理由は、ビジネスモデルも一種のイノベーションなので、そうしたアイデアを思いつき実践する人がこれまで居なかった、ということだろう。ただし、マーケットが、これまで以上にそうしたビジネスモデルが成功し易い環境へと変化しているのも事実だ。ケニアでも多くの地域で道路が良くなり市場へのアクセスが改善しているし、土地の稀少性が増し単収を上げる技術への潜在的な需要も高まっている。つまり、技術のリターンが以前より大きくなっているのだ。

他の販売店の中から追随者が出てくるがどうかは、先駆者の成功に掛かっているが、私は、Innocentの店の成功で、似たようなことを始める店が多数出て来るのではないかと予想している。どの地域でも上手く行くとは思わないが、上手く行く地域では、公的機関が行う普及活動よりも技術普及に貢献するだろう。

一般に公的機関が担う農業普及は、その非効率性が問題になることが多い。普及員があまり活動しない、あるいは、技術を紹介してもなかなか普及しないという話は良く聞く。前者は、普及員のインセンティブ・システムの構築が困難なことに起因する。後者は、紹介する技術が農民の利益に繋がらない場合が儘あるからだと思う。ある技術が儲かるか儲からないかは場所とタイミングに大きく左右されるので、プランナーによる技術の選択は容易ではない。更に、公的資金や援助で行われる場合、紹介される技術がその場所に不適合でも普及活動はしばらく続く。こうした要因で、公的な農業普及の効率性が上がらないのだ。

少なくとも、農業のポテンシャルのある地域では、農業技術の普及に対する民間部門の役割は大きくなっていくだろう。

もう一つInnocentの店で驚いたのは、彼の店では登録した優良顧客に対し、商品の信用売りをしていたことだ。担保はとらず、無利子で、支払いは収穫の後で良いという、何とも気前の良いサービスを提供していた。しかも、去年の旱魃で収穫がほとんど台なしだった時は、返済を更に1シーズン待ってあげたそうだ。信用売りをする顧客の条件は、顧客登録後6ヶ月以上たっていて、ワークショップに参加し、やる気のあるヤツだそうだ。信用売りを始めた当初は、貸し倒れが何件かあったそうだが、現在の貸出ルールを確立してからは、貸し倒れは殆ど無いらしい。ここでも、顔の見える関係を構築していることが、このシステムが機能する重要な要因になっているようだ。現金を貸すのとは違い、無駄遣いする可能性がある訳ではないので、どういう人物でどの位の土地・資産を持っているかが分かれば、返済できるかどうかの判断は難しくない。経済学で言うところの、貸し手と借りての間の情報の非対称性(貸し手が借り手のタイプが分からない)による逆選択の問題が小さいケースなのである。

今回の視察旅行でMr. Innocentと会えたお陰で、技術普及・小規模金融の発展の鍵は民間に有ということを再確認した。

*OyugisはKisiiから車で北へ30分くらいの所にあるNyanza県の街である。

2010/09/24

穀物保険(Kilimo Salama)の現状視察

以前のポストで紹介した天候インデックス型穀物保険(Kilimo Salama)の現状を知るために、9月14日から4日間WesternとNyanza方面を回って、保険を取り扱っている農業インプット販売店を訪問し、話を聞いてきた。

以下聞き取りの内容を中心に、Kilimo Salamaの現状を述べる。

Kilimo Salama の特徴

1. 天候インデックス穀物保険である。対象の穀物はメイズと小麦で、保険加入者に対し、旱魃(drought)と超過雨(excess rain)の場合に保険金の支払いが行われる。保険金支払の判定は保険購入者の最寄の天候観測所のデータを元になされる。
2. 農業インプットとの抱き合わせで販売される。保険はインプットコストの5%を支払うことで加入できる。保険金は最大でインプットコストの100%を補償する。
3. 保険加入が農業インプット販売店でのモバイル操作で完了する。書類への記入などは必要ない。
4. 保険金がモバイル・マネー(M-pesa)で支払われる。

Kilimo Salama の展開

Kilimo Salamaのパイロット・プロジェクトは2009年の2−3月にNanyukiで始まり、今年(2010年)の2−3月から他の地域でも展開を始めた。耕作期が2期ある地域では、この8-9月にも販売されている。
現時点で、36店舗でKilimo Salamaの販売が行われおり、延11,000人の顧客が保険を購入している。

訪問した販売店で、保険購入者数、掛け金の合計額を聞き取りしたが、記録をつけている販売店が少なく、大まかな数字しか分からなかった。ただし、まだまだ保険加入率は非常に低い。販売員へのインタビューでは、加入率が低い理由として、認知度が低い、保険に対して良いイメージを持っていない等が挙げられた。認知度を上げるための活動としては、ラジオ番組・新聞での告知、農民グループを対象とするワークショップでの宣伝、店頭での宣伝という方法が取られている。

穀物保険の存在を知っていたとしても、その多くがまだ様子を伺っているようである。Busiaに近いFunyulaのAgrovetで聞いた話によると、今年の第一耕作期に保険購入者に対し払い戻しがあり、第二耕作期に加入者が急増した、ということがあったそうだ。逆に払い戻しが無く、次期の加入者が減少するというケースもあり得る。幾つかの販売店で、加入者から天候不良なのに保険金支払がない、というクレームがあったと言う話も耳にした。

現時点では、加入率が低く、販売した保険額も小さく、ビジネスとして成立するレベルでは無い。今後しばらくの間は、援助機関のサポート無しでは運営は困難なように思う。また、農民への効果も限定的で、保険商品を改善していく必要性がありそうだ。例えば、掛け金が高くて、保険金額も大きいという商品があったら良いという声があった。

Kilimo Salama の対象地域

現在、保険販売を行っている農業インプット販売店(agrovet)の所在地は以下の通りである。(それぞれの地域の取り扱い店の数、天候観測所の数を括弧内に分かる範囲で示した。)保険の対象となる農家は最寄の観測所から直線距離で20km以内とされている。ただし、最寄の観測所は保険加入者の自己申告によるので、範囲外でも購入は可能。

Central県
Embu

Western県
Busia /Bungoma (取扱店:12店・観測所:7箇所)

Rift Valley県
Eldoret (取扱店:9店・観測所:7箇所)

Nanyuki

Nyanza県
Oyugis/Homa Bay(取扱店:9店・観測所:5箇所)

今回聞き取りを行ったのは、上記のうちEldoret(2店)・Bungoma(2店)・Busia(3店)・Oyugis(2店)。



今回の旅の軌跡
走行距離約1500km

2010/08/30

ウガンダの中等学校(セカンダリースクール)無償化政策

先週、またまたウガンダに行ってました。最近は農業関連のプロジェクトばかりに携わっていましたが、今回はがらりと趣きを替えウガンダの教育事情の視察に、主に中等学校を訪問し、学校関係者に話を聞いてきました。

今回我々が注目していたのは、2007年に始まった中等学校(前期)の無償化政策*(Universal Secondary Education、以下USEと記す)です。これまで行ってきたウガンダでの農村家計調査の対象地域の中等学校を中心に周り、その政策が子供たちの教育に、学校に、また地域にどういう影響を与えたのか、色々と見聞きしてきました。アポイントもなく訪問した珍客に先生・事務の方々は大変親切に対応してくれました。

ウガンダの初等中等教育システムは、初等学校(プライマリースクール)が7年間、中等学校の前期(O-level)が4年間、後期(A-level)が2年間となっています。生徒は初等学校の最終年で統一テスト(Primary Leaving Examinations)**を受け、パスすると中等学校へ進学できます。進学すると中等学校前期の最終年でまた統一テスト(Uganda Certificate of Education)があり、その成績に応じて中等学校後期への進学の資格が取得できるかどうか決まります。後期に進学した生徒は最終年(2年目)に統一テスト(Uganda Advanced Certificate of Education)を受け、その成績をもとに希望の大学・学部へ進学できるかどうかが決まります。後期へ進学しない又はできない生徒は、職業学校(教員養成学校を含む)やその他専門学校へ進学するか又は働くかを選択をします。

USE政策の対象となる生徒は、07年以降に中等学校へ進学した中等前期の生徒で、かつ初等科7年生で受けたPLEの合計スコアが、28ポイント以下の生徒達です。PLE受験者の約70−80%の生徒は、そのUSE適用基準をクリアします。ただし、無償化政策以降も、全ての公立校で授業料が無料になったわけではなく、政府の助成を受け取る学校(USEスクール)とそうでない学校(非USEスクール)があり、非USEスクールの生徒は、PLEの成績がUSE基準を満たしていても、授業料を支払います***。

今回の調査旅行では、カンパラ以東の中等学校を12校回りましたが、USEに対する教育関係者・地域住民の評価は高く、大雑把に集約すると「改善の余地は大いにあるが、良い政策だ」ということになります。特に、これまで金銭的理由で中等学校に行くのが困難だった貧しい家計の生徒に、進学できる機会が与えられた事を評価する声が多かったです。とは言え問題も多い政策です。一番の問題は、教育の質の低下の問題です。生徒数の急増に教員数・施設の拡充が追いついていない学校が多く、話を聞いた学校でも1クラスに100人以上という学校が幾つもありました。また、採点作業等の負担の増加で、教員の授業へのモチベーションが下がった、生徒の増加に伴いやる気のない生徒も増え、生徒の学力レベルが下がった、という話も聞かれました。教員不足で特に深刻なのは、理数系科目です。1学年の生徒数が100名以上の中規模の学校でも、数学・物理・化学などの教科を担当する常勤の教員が一人もおらず、非常勤教師で対応している学校が幾つもありました。ただし、理数科教員不足は、ウガンダ特有の問題ではなく、ケニアその他のアフリカ諸国でも同様の問題を抱えているようです。(知人がケニアで理数科教育強化プロジェクトで奮闘しています。)一般に労働市場において理工系出身者に対する需要が高く(その割に供給が少なく)、理工系出身者は教育界以外により良い就業機会があるということの証左だと思われます。

USE校の教育の質の低下に伴い、当然の反応として、金銭的な余裕がある家庭では子供を非USE校へ送ります。因みに、ウガンダでの我々の調査のカウンターパートであるマケレレ大学の調査チームの面々の子息も、皆例外なく、USE校ではなく、私学か公立非USE校に通わせています。日本の学区制の様な制度は存在しないので、金銭的な余裕がありさえすれば、学校の選択は全くの自由で遠方の学校に子供を送るというのも一般的です。学校選択が自由なので、特に私学では学校の評判を上げるのに苦心しているようです。学校の成績を上げるためにUSE校の優秀な生徒を、ヘッドハントし特待生として受け入れるケースもあると聞きました。

ウガンダの初等・中等教育の概要を把握するのに、幾つかの指標のトレンドを教育省の公式統計から拾ってみました。以下のグラフは初等・中等学校の生徒数・教師数・学校数の2000年の値を1と基準化して、その後の変化示しています。


初等・中等教育に関する指標の変化
(2000年値=1, 初等教育指標:破線, 中等教育指標:実線 )
 Source: Ministry of Education and Sports


USE政策は07年に開始したのですが、グラフをよく見てみると、導入前05年くらいからトレンドが変化し、急激な増加傾向を示しています。(01年から05年で中等学校数が減少しているが、どうやら教育省のデータの不備のせいで、実際には増えているようだ。)生徒数が導入以前から増加しているのは、97年導入のUPEの裨益者達が初等学校を卒業し、中等学校へ進学するケースが増えたためと思われます。(ムセベニ大統領が06年の大統領選のキャンペーンで、USEを公約していたので、USE導入を期待して進学した生徒もいると思われます。ただし、07年より前に入学した生徒にはUSEは適用されていません。)教員数も学校数も増加しておりますが、生徒の増加には追いついておらず、09年の生徒・教員比率(1,194,454(生徒数)/65,045(教師数))は18.4人で、00年と比較し悪化しています。(教師数は常勤と非常勤を区別していないので、複数校掛け持ちの非常勤教師をダブルカウントしているものと思われます。インタヴューした限りでは、複数校掛け持ちの非常勤教師は相当いました。)

今年は、07年のUSE導入後入学した生徒達が統一テスト(UCE)を受ける年で、10月・11月に行われるテストの結果が来年の初めには明らかになります。USE校と非USE校とのUCEの成績の違い、前年度との成績の比較などUSE政策の教育の達成度への影響が客観的に評価されることになります。(ウガンダの友人は公表されるデータは意図的に操作せれているだろう、と言ってますが…。)研究の題材として色々なネタを提供してくれそうなウガンダの教育部門には、しばし注目してみたいと思います。

*因みに初等学校の無償化政策(Universal Primary Education)は、1997年に始まり、公立校では原則授業料は無料となっている。UPEもUSEも大統領選での公約で、大統領選挙後に実施された。

** PLE証書を取得するのに必要な筆記試験で、英語・数学・科学・社会の4教科からなり、それぞれの科目で、1(最高評価)から9(最低)のスコアが与えられ、それらの合計点でGradeが決まる。合計で4-12ポイントがGrade1、13-23がGrade2、24-29がGrade3、30-34がGrade4となっています。Grade1-4の受験者にはPLE証書(Certificate)が授与され、進学の資格が与えられる。下の円グラフは09年のPLE受験者のGrade毎の割合を示している。(なお、受験者数データはNew Visionの記事から拾ったが、パーセンテージが記事と微妙に合わない。受験者数の間違いか、パーセンテージの計算間違いのいずれかであるが、新聞記者のご愛嬌ということで見逃して欲しい。新聞記事も(公式統計も)端から信ずるべからず。)



***一般に、公立でも元々高い授業料を課していた進学校などは政策の適用外となっている。また、私立校の中にも、USE助成を受けるUSEスクールがある。地域に公立のUSE スクールが少なく、かつ学校運営に関して一定の基準(例えば、先生の数、施設の充実度)を満たしてる場合は助成の対象になるようだ。(公式の採用基準については、現在資料を収集中。)USEスクールは、一学期あたり公立校で生徒一人につき41,000USH(約1,535円)、私立校で47,000USH(約1,760円)を受け取り、生徒からの授業料の代わりに学校運営費として運用する。公立のUSE校で助成額が少なくなっているは、USE助成の他にフルタイムの教師の給与が政府より支払われるためである。なお、学校年度(school year)は2月に始まり、12月初めに終わる。3学期(term)制である。USE助成は3月中旬に行われる教育省による人数調査(head counting)に基づき支給される。今回の学校関係者へのインタヴューの中で、政府からの支払いが遅れるため、しばしば学校運営の支障をきたすと発言する方が多かった。




理科室。




女子寮。土間の上に何と3段ベッドが並んでいた。





今回の旅の軌跡

2010/07/05

M-Kesho (モバイルバンク口座)

Safaricomのモバイル・マネー絡みで新しいサービスが始まった。以前のエントリーでM-Pesa(ケニアのモバイル・ネットワーク・プロバイダーであるSafaricomがサービスを提供しているモバイル・マネー)を紹介したが、今度はEquity Bankと組んで、M-Keshoなるサービスを開始した。因みに"Kesho"は「明日」という意味のスワヒリ語。このサービス・アカウントはM-Pesa口座をもつ利用者であれば開設できる。(今のところ、National IDが必要で、PassportやAlien IDでは開設出来ないよう。)

M-Pesaが送金手段であるのに対し、M-Keshoは銀行口座で、預金には利子もつくし、小口(5,000Kshまで)の短期融資(30日間)の申請もできる。なお、申請が受理されるかどうかは、個人のクレジット履歴で判断される。利用者はM-Pesa口座とM-Kesho口座間の預金の振替、ローン申請、生命保険の加入など、色々な金融サービス取引を携帯電話のSMSで行うことができる。M-Pesa口座に移した預金は、通常のM-Pesa預金なので、M-Pesa取り扱いブースで現金化したり、SMSで送金したりできる。

預金に利子がつくだけじゃなく、小口融資の申請が簡単に行えるのは、日頃、小額の運転資金の工面に悪戦苦闘している町の物売りや零細企業にとっては非常に魅力的だ。モバイル技術の発展で、小口の金融サービスの取引費用が激減したために、個人商店主も零細農家もそうしたサービスの恩恵を受けられる様になってきた。今、ケニアの金融サービスの展開は目を離せない。ケニアの経済が10年後どうなっているか、非常に楽しみである。

追記:この金融サービスが可能になったのは、最近金融サービスに関する法律が改正されたからのようですが、同じ議会で価格統制法が可決されてたのは非常に頂けない。

2010/07/03

価格統制法

先週、ケニア議会でトウモロコシ・麦・燃料などの必需品の価格を統制する法案が可決されました(Daily Naitionの記事)。キバキ大統領が署名をすると施行されるようです。昨年の第一耕作期がひどい旱魃で、穀物価格が高騰し国民から不満の声が上がりました。それに反応した議員が去年議会に法案を提出していたようです。

価格統制の弊害は、経済学の初歩の初歩で習いますし、歴史が沢山の実例を示しています。なぜこんな法案が議会をあっさり通ってしまったのか疑問です。(たとえマトモな経済顧問がいないとしても、ドナー各国の関係者がイチャモンをつけそうなものですが…)

農産物の最高価格を設定すると、不作で供給が減ったとき、その値段で買いたくても手に入らない消費者が出てきます。その帰結として考えられるのは、i)一部の人々が特権的に生産物を取得し、店から商品が消える、ii)闇市ができて違法に取引される、iii)高値で取引されている近隣諸国に生産物が流れ、国内供給量がさらに減る、そんな所でしょう。更に、生産者側もこの法案に反応するでしょう。まず、対象作物が高値で売れなくなりますから、そうした作物の栽培のインセンティブが減り、供給が減ります。次いで、肥料や高収量品種などの農業インプットへの投資のリターンも下がりますから、投資を控えるようになり、生産性が下がり更に供給が減り、品不足に陥ることが予想できます。

勿論、価格規制が社会厚生を引き上げるケース(規制対象の財が、独占的に供給されていて価格が限界費用を超えている場合のみ)もありますが、どう考えてもケニアの農産物はそうしたケースには当てはまらないでしょう。

キバキ大統領はLondon School of Economicsで経済学を学んだそうですので、学んだことを活かして、是非ともこの法案を廃案に持ち込んで欲しいものです。

2010/05/11

指紋押捺と借金回収

以前のエントリでも紹介しましたが、ケニアではモバイル・マネー(m-pesa)の急速な普及で、距離を隔てた個人間の金銭の受け渡しがここ2、3年で革命的に容易になりました。送金に掛かる手数料も少ないので、小額のやり取りにも使われます。これからは、今まで取引費用が高すぎて現実的では無かった小規模農家を対象にしたマイクロ信用・マイクロ保険などの金融サービスが色々出てくるのは間違いないでしょう。mpesaで貸してmpesaで返済してもらう、というのは技術的にすでに可能ですから、如何に低い費用で返済率の高いシステムが構築できるかで、マイクロ金融が今後発展するか否かが決まってきます。もし、小規模農家を対象とした低利のマイクロ金融が展開したら、信用制約の問題も緩和されアフリカ農村が変わるかもしれません。モバイル技術の発展でその期待はどんどん膨らんでいます。

そんな経緯で最近、どうしたらマイクロ金融の返済率が高まるかを調べています。「お金を貸すときに借りる人から指紋を取ると返済率が上がる」というのが今日読んだ Gine, Goldberg, Yang(2009)の実証的なファインディング。ちなみにGine and Yang (2008, JDE) は hkono氏のブログでも紹介されています。著者らはアフリカのマイクロ金融に関する研究課題をフィールド実験を使って実証した論文を幾つか書いていて、今回の論文もその一つです。

今回のフィールド実験はマラウィで試験的に行われた契約農業プロジェクト*の対象農家に対して行われたもので、農業インプットの掛売の集金を効率的に行う方法を検証しています。まず、1グループ15人から20人で構成されている契約農家を、グループ単位で無作為に治験群と対照群にわけます。対象農家はプロジェクトからパプリカ生産のための農業インプット(肥料・種・農薬等)0.5から1エーカー分を掛買いできますが、シーズン終了後に利息分と合わせて返済する必要があります。もし返済しなかった場合、今後掛買いの機会を失いますが、きちんと返済した場合、より高額の借入が可能になります。借入・返済のルールがいわゆる動学的インセンティブシステムに成っています。こうした共通のシステムの下、治験群の農家には借入時に、電子的に指紋のスキャン画像を取ることを要求し、対照群の農家には要求しない、という差別化をします。そして、シーズンの収穫時期後に集金を行い、2つのグループ間で返済率がどの程度違うかを計測し、指紋押捺の借金回収の効果を検証しています。更に、貸し倒れリスクの高いタイプの農家とそうでないタイプの農家で、指紋押捺の効果に差があるかどうかも検証しています。

結論は、貸し倒れリスクの高いタイプの農家の返済率への影響は大きく、統計的に有意な効果があるが、そうでないタイプの農家は小さく有意な効果はない、というものでした。この結果は、指紋押捺することで、個人認証がより正確にできるようになるため、特に貸し倒れリスクの高い農家にとって、動学的インセンティブシステムがより機能するようになる、つまり、契約不履行の場合の将来の借り入れ機会喪失という脅しが、空脅しではなく確かな脅しとして機能するようになり返済率が高まる、と解釈できます。


*パプリカ(香辛料の原料)の輸入・加工・販売を行っているオランダの企業Cheetah Paprika Limited(CP)が、政府系金融機関のマラウィ地域金融法人(Malawi Rural Finance Corporation (MRFC))と共同で2007年に行ったプロジェクト。

2010/05/05

Kilimo Salama(安全な農業)

エントリのタイトルの”Kilimo Salama”というのはスワヒリ語で「安全な農業」という意味ですが、UAPSyngenta Fundationが肥料輸入販売会社のMEA、モバイル・ネットワーク・プロバイダーのSafaricomケニア気象局、NGOのCNFA/AGMARKの協力の下、試験的に販売を始めたメイズ・小麦農家を対象とする穀物保険のことです。最近幾つかのメディアで取り上げられていて(Daily Nation 2010/03/10, Economist 2010/03/11)ずっと気になっていました。

そこで、先日その保険を販売しているUAP保険本社(在ナイロビ)を訪問し、穀物保険のプロジェクトの担当者に会って穀物保険について話を伺ってきました。

この保険商品の特徴はi)天候インデックス保険であること、ii)モバイル技術を使用し、携帯のSMS通信で保険契約を取り交わすこと、iii)保険金がモバイル・マネー(m-pesa)で支払われることにあります。以前のエントリでも紹介しましたが、ケニアではネットワーク・プロバイダーであるSafaricomのモバイル・マネー"m-pesa"がこの2、3年で急速に普及し、農村でも浸透し、m-pesaを利用した金融サービスが農村でも技術的には利用可能な状況にあるのです。

「天候インデックス」というのは雨量、日照時間、湿度というような天候に関する公に観察可能な客観的な指標です。この天候インデックスに保険金支払いの基準を関連付けた保険商品が、天候インデックス保険です(hkono氏のblogにインデックス保険について詳しい説明あり)。従来の保険だと保険業者が保険加入者の損害の程度を調査して、その結果を予め決められた保険金支払の基準と照らし合わせて、保険金支払額が決まります。一方、インデックス保険の場合、個別の損害調査は必要なく、天候観測所のデータを定期的に収集しさえすれば、保険金支払額を決定するための情報が集まります。

”Kilimo Salama”は天候インデックス保険であることに加え、携帯電話で保険契約・支払に掛かる取引が完了するものなので、保険金支払いのための被害の個別調査は必要ありません。また、掛金の回収・保険金の支払いのために保険業者の担当者がわざわざ保険加入者を訪問する必要もありません。そのため保険契約に掛かる取引費用が激減しました。そのお陰で、小規模農家を対象とする掛金のとても小さな商品でも民間のサービスとして提供可能になったのです。

この保険商品は、農業インプットとの抱合せという形で販売されていて、農業インプットの販売店で、肥料・種子・薬品を購入するときに、加入できます。掛金はインプットのコストの10%なのですが、その内の5%は農業インプットの販売会社が支払うことになっているので、実際農民が支払う掛金はインプットコストの5%です。保険はインプットのコストをカバーしていて、旱魃や大雨などで天候インデックスがある基準範囲から乖離した場合、農民の購入したインプットの代金がm-pesaを通じて払戻される仕組みになっています。

この商品の普及の一つのカギは、他の保険商品と同様、掛金を抑えつつ如何に損失リスクを軽減させるか、にあります。そうするためには、天候インデックス穀物保険の場合、穀物の単収と強い相関もった天候インデックスを採用する必要があります。これは、極端なケースを考えると分かりやすい論理です。例えば、天候インデックスが収量と無相関の場合、その保険商品はギャンブルと同じで、天候による損失リスクを軽減しませんから、リスクを嫌う農民は加入しません。逆に完全に相関している場合、損失リスクが確実に軽減しますから、同じ掛金・保険支払のもとでより多くの農民が加入します。

"Kilimo Salama"では、降水量を天候インデックスとして採用していますが、色々と問題点もあるようです。まず、雨量の観測点から離れるにつれ、雨量のレベルが違ってくる。地形によっては、少しの距離の違いでも、雨量が大きく異なることがあるようです。この場合観測点のそばでは、天候インデックスと単収の相関が高いのに、離れるにつれて相関が大きく低下するという問題が発生します。この問題を緩和するために、試験販売の対象地域に一機約4,000USDの観測機械を30台設置したそうです。この観測機械は、天候情報を収集し15分毎にモバイル・ネットワークを通じてデータセンターに自動送信するようになっています。

もう一つの問題は、保険会社が掛金・保険金支払額・支払い基準などの契約内容を策定するにあたり、対象地域の多くの地点で過去の雨量・収穫量の正確なデータが必要なのですが、そうしたデータが中々ないことです。そうしたデータは損害予測をするのにとても重要です。正確なデータがないと損害予測の誤差が大きくなり、保険商品の契約内容の策定が難しくなります。例えば、掛金が高くなりすぎたり、保険金支払い額が少なすぎたり、支払い基準が厳しすぎたりすると、農民にとって魅力的な商品ではなくなります。また、そうした内容を甘くしすぎると、保険会社の損失が大きくなり、持続可能なサービスではなくなります。"Kilimo Salama"はまだ試験的な販売なので、こうした点に関しては試行錯誤の段階のようです。

農業インプットの改良で旱魃に強い品種などが開発されており、極端な旱魃などにならない限り、在来種よりも収量が多く、更にその変動も少ない改良種などもあります。極端な天候の場合の損失リスクが軽減するような保険商品は、改良種などの技術普及へ大きなインパクトを与えるものと思われます。今後の展開を見守っていきたいと思います。追加情報があれば、また報告します。

2010/04/23

キリマンジャロと小規模灌漑

知合いが実施しているキリマンジャロの麓の小規模灌漑プロジェクトを見学に行きました。


建設途中の水路とキリマンジャロ
水路1メートル建設のための資材費用:2千シリング(約2400円)


農業省の一つの部署だった灌漑・排水課(branch)が、2003年の省庁再編で水灌漑省の灌漑・排水局(department)に格上げされたことが示唆するように、ケニア政府は安定的な食料生産、農業生産性の増大、そして農民の生活改善の手段として、灌漑に以前にも増して着目しています。というのも、ケニアは国土の約80%が乾燥・半乾燥地域に分類される乾いた国ですから、天水に頼って安定的に農作物を生産できる地域が、限定されています。天水農業が可能なところは一般に人口密度が高く、そのために一戸あたりの作付面積が小さいので、少ない土地でできるだけ収穫量を増やすような技術(化学・有機肥料、高収量品種など)は、20年以上前からすでに取り入れられています。そうした地域で今後生産性を飛躍的に高めることは難しいでしょう。乾いた地域が多く、天水で農業が出来るところも、もうその潜在力をかなり使いきっている、という状況ですから、農業生産を増大させるためにできることは限られています。数少ない選択肢の一つが半乾燥地域への灌漑です。雨量は少ない(または不安定だ)が近くに水源が確保できる地域に灌漑施設を建設して、安定的に農業生産が可能な地域にする、というものです。

FAOのAQUASTATによると、灌漑可能なエリアは539千へクタール(耕作面積全体の9.5% 2003年統計)で、1993年の時点でその12%(66.6千ha、耕作面積の1.2%)、2003年の時点でその19%(103千ha、耕作面積の1.8%)のエリアで灌漑が敷設されています。また、水灌漑省の2005年の水開発報告によると、近年増加率が最も高いのが今回見学させて頂いたタイプの灌漑で、小規模農家が集まって作った水管理組合が運営する、いわゆる小規模灌漑です。その敷設面積は2003年に民間の商用灌漑施設(この分類の定義に関する説明はありませんでしたが、おそらく園芸作物などを生産する私企業・大規模農家の灌漑施設)の面積を抜いています。

小規模灌漑のウェイトが高まっているのは、1)初期投資額が小さいこと、2)比較的少数のお互いに近隣に住む受益者達が自主的に管理運営するので「フリーライダー」の問題や「共有地の悲劇」的な問題が小さいこと、3)一般にローテクを使うので自分たちで維持管理ができること、等の理由が上げられます。とは言え、やはり零細農家が全く自前で自主的に始めるというケースは少なく、多くの場合は政府や援助機関またはNGOが初めに資金的・技術的に手助けをし、軌道に乗ったら農民達に任せると行った形式で行われています。


スキーム別の灌漑面積の推移(縦軸:ha) source: Kenya national water development report 2005, Ministry of Water and Irrigation


私が今回見学させて頂いたのが当にそういうタイプの灌漑です。もともと、この地域では何軒かの農家が川から溝を掘り水を畑に引き込んで簡単な灌漑を行っていましたが、灌漑の効率が悪くごく限られた農家にしか水が行き渡っていませんでした。そこで、同じ水源でより広い地域で水を引き込めるような効率の良い灌漑の技術を紹介し、より多くの農家が安定的な農業生産をできるように、暮らしぶりがよくなるように促す、というのが私の知人が担当しているこの灌漑プロジェクトです。2005年に始まって今年の12月で支援は終わりますが、プロジェクト終了後に参加住民が自主的に灌漑維持管理また水路の拡張ができるように、これまでの活動の中で指導してきたようです。

プロジェクトのインパクト評価はこれからだそうですが、現地の農民から話を伺ったところ灌漑の農業生産への効果はやはり大きいようです。水管理組合の組合長に話によると、灌漑が可能になったことで土地の値段がここ3−4年で約2倍(50,000-80,000sh/エーカー が 100,000-150,000sh/エーカー)になったそうです。プロジェクトが始まって、実際に灌漑用水が利用できるようになったのは最近ですが、地域農民が灌漑がもたらす生産へそして収入へのプラスの影響を認識しているのは間違いありません。

プロジェクト終了後も、長期的に灌漑施設が運用され、また用水路が拡張されより多くの農民が継続的に利用出来るようになることを願います。追跡調査が可能なら、プロジェクト後の経過をフォローアップして、長期的なインパクトも評価して欲しいですね。誰もやらないようなら、私の将来の研究ネタとして密かに温めておきます。




調査旅行の軌跡


*直接関係ありませんが、日本の治水に関する歴史が纏められているなかなか面白いサイトを見つけたので、紹介しておきます。水土の礎という(社)農業農村整備情報総合センターのサイトです。

2010/04/15

タンザニア旅行

今日は久々にナイロビオフィスで仕事です。3月半ばから、アメリカ・イギリス・日本へ出張、4月2日にナイロビに戻り翌々日からタンザニアへ家族旅行、ナイロビに戻った翌日ワークショップで研究発表とバタバタしてました。

今回のタンザニア旅行は旅行業を営んでいる友人家族の企画で、その家族とわが家が自家用車で行って来ました。ほぼ全行程運転してきましたよ。走行距離約1500キロ、途中でスタック一度、パンク一度と我が家の車もラフロードに相当痛めつけれました。私は何度も車の故障で予定通り帰還できないのではと心配しましたが、旅を熟知した友人家族のサポートと車(日本の輸入中古車)の性能・耐久性のお陰で、サファリを満足行くまで堪能し、予定通りに帰還することが出来ました。

今回の旅は自分で運転したので、充実感が違いますね。疲れたけど。デコボコ道の走行も日に日に慣れて上手くなって行くのが分かりました。



ヌーの群れ(セレンゲッティ国立公園内)


動物沢山見ました。ビッグ5(象・ライオン・豹・バッファロー・サイ)も制覇したしね。ンゴロンゴロ・クレーターの中でチーターも見ました。


岩(セレンゲッティ国立公園内)


この岩は中が空洞になっていて石で叩くと良い音がします。小さな窪みが沢山ありますが、そのくぼみは石で何度も叩いた跡なんです。音色もくぼみ毎に微妙に違っています。マサイが儀礼で楽器として使っていたそうです。空がきれいでしょう。


Shifting Sands(ンゴロンゴロ国立公園内)


上の写真Shifting Sandsと呼ばれる砂鉄からなる三日月型をした砂山で、草原の中に突如として現れます。強い風が吹いて砂がどんどん飛んでいるのに、砂山が維持されているのが不思議でした。近くのオルドバイ渓谷の学芸員(オルドバイ渓谷はアウストラロピテクス・アファレンシスの360万年前の足跡が見つかったところで小さな博物館がある)の話によると、Shifting Sandsは三日月型の砂山を維持しつつ少しづつ西へ移動しているそうです。

今回の旅行中も何時もの調査旅行の時と同様にGarminのGPS機器を常備し、ほぼ全ての行程のgeocodeを記録してきたのですが、当然砂山の位置もマークして来ました(2° 56.703'S  35° 18.886'E)。その周辺のGoogle Earthの衛生写真を見ていて、Shifting Sandsに関して小発見がありました(興味のある方はGoogle Earthで確認して見てください)。写真を拡大すると、砂山は私たちが行ってマークした地点よりも約90メートルくらい東に位置していて、確かに砂山が西に移動していることがわかります。少し縮尺を引いて見ると、砂山が東から西へ移動してきた軌跡が地面に残っています。もっと引いてみると同じような跡が幾筋も確認出来ます。同じような砂山が過去に幾つもあったことが分かります。我々が訪れた砂山より3.5キロほど北上した位置にはもう一つの砂山があります。どの筋の西の端も先細りになっていて、砂山は東から西へ移動し、やがて消滅していく運命にあることが容易に予想できます。筋を東にたどっていくと、筋は段々と北東の方角へと伸びています。地形の影響でその様な風の流れができるのでしょう。画像の解像度が低い(緑がかった)部分にまで筋が見えますので、相当な距離を移動しているようです。

今度行ったときにもう一度砂山の位置をマークするか、Googleの衛星写真が撮影された正確な時期がわかれば、移動速度がわかりますね。また、異なる時点での衛星写真でサイズの変化が分かれば、私たちが見た砂山がいつ消滅するか予測可能だと思います。



今回の旅行の走行の軌跡


楽しい旅行でした。

追記:Shifting SandsのGoogle Earthの衛星写真の撮影日が分かりました。メイン・ウィンドウの左下角に出ているんですね。知らなかった。2005年1月16日です。Google Earthのルーラーを使って私がマークした位置と衛星写真の砂山の距離を計測すると、約90メートルあります。衛星写真がとられてから約5.25年経過しておりますので、砂山の移動速度は90/5.25で約17.1メートル/年となります。



Shifting Sandsの衛星写真(Google Earth)

2010/02/17

Boserupとアフリカ農業

最近アフリカの異なる地域の農法の違いを見る機会が増えるにつけ、Boserup(1965)の中で、彼女が40年以上前に言った事は当たっているな、としみじみ思います。マルサス理論、つまり「食料供給と農業技術が人口のサイズを決定する」という言説に対して、彼女は、「人口のサイズが農業技術を決定する」と説きます。この説は、マルサス理論と対立する議論というより、所与の条件として考えていた農業技術を、人口圧力によって変化する(内生的に決定される)変数として捉えた拡張モデルと言えます。人口はマルサスの言うように幾何級数的に増えていますが、算術級数的にしか増えないと考えられた食料生産も、技術進歩のお陰で人口成長率以上のペースで増えています。

速水佑次郎先生の「誘発技術革新(induced technology innovation)」の議論も、Boserupと同じライン上にあって、労働力が希少になってくると労働節約的な技術の、そして土地が希少になってくると土地節約的な技術の採用や開発が進むというものです。まさに「必要は発明の母」ってやつです。ただし、途上国の場合、「発明」しなくても、どこかですでに発明された技術を「採用」すれば良いというケースが、結構あったりします。そういうところでは「必要は採用の母」で、必要としている技術を紹介すると、一気に普及したりします。私が行っているウガンダのプロジェクトで、集約的農法のための農業インプット(肥料・高収量品種)を紹介したところ、そうしたインプットの採用が急に増えたのも、そうした技術が必要だったからでしょう。
 
潜在的な需要はあるんだけど、まだ知られていないために普及していないという技術・製品がアフリカでは数多くあるはずです。(だって、よそでは使われているけどここでは普及していないものって沢山あるでしょう。)また、多くのアフリカの国々で情報・交通インフラは確実に改善していますから、以前にも増してそういう技術・製品が増えているはずです。

アフリカにはビジネス・チャンスがごろごろしているような気がします。なら、自分で商売すればと言われそうですね…。

マトケ(バナナ)と化学肥料

ウガンダのマトケ*の話がAfrican Agricultureというblogで紹介されていました。ウガンダではほとんどの農家がバナナ生産に化学肥料を使っていません。バナナの産地として有名なムバララの中心地はウガンダで3番目(たぶん?)の規模の街ですが、農業インプットの販売店に行っても化学肥料を売っていません(2008年9月、2010年1月ムバララ訪問時の聞き取り調査で確認)。


ムバララ近郊。写真中央の緑の濃いところがバナナ畑。



今の所そういう状況なのですが、記事によると少量の化学肥料の施肥でバナナの収量が大幅に上がるとともに、果実が成熟するのに要する期間が短縮されるとのこと。内陸国のウガンダでは輸入に頼る化学肥料の値段が高く、肥料の収益率が他国より低いのは確かなのですが、それでも高い収益率が見込める地域があるとのこと。収益率を上げる方法として、記事の中では、窒素・リン酸・カリウムの成分が固定されている一般に流通しているパッケージ製品ではなく、土壌に不足している成分を中心に配合した肥料を使用することを上げています。農家が自分で効果的な肥料をブレンドするためには、土壌調査をしなければならないのですが、土壌調査のコストは大したことはないし、少し知識があれば自分でできます。

前回のウガンダの調査の時に、調査対象家計の土壌の簡易調査も行ったのですが、その時に使用したマケレレ大学の土壌科学の教授が開発したという簡易テストキットは試薬と試験管等のセットで約90米ドルで60件分できるというものでした。添付の説明書通りにやればできるので、字が読めればできます。


手前のバッグが土壌テストのキット。



農業普及委員が村単位で分析すれば、1件当たり土壌調査費用が1.5ドルですから、安いものです。ただし、ウガンダでも私の知る限り多くの地域で農業普及員の制度が上手く機能しておらず、農業普及委員制度が改善されなければ普及員を通じての分析の実施は難しいですね。農業普及員が役に立たなくても、うまくやれば民間でもペイすると思うんですがね。農業インプットの取扱店で、農家が持参した土壌サンプルを受付て有料で分析及び診断を行う、というのはどうでしょう。土壌調査をしてその結果をもとに作物に応じた土壌改良の処方箋を作るには、その調査データと希望の土壌成分とをつなぐマッピング情報が必要ですが、農学の知見の蓄積から借りてくれば、簡単なチャートを作るのも難しくないでしょう。そんな用途のPC用ソフトウェアもあるようですし。次回のプロジェクトで、簡易テストの結果をもとに作った特製ブレンドの肥料がどのくらいインプット費用を削減し、収量を上げるのかやってみようかな。ぜんぜん経済学ではないですが…。

土壌に足りない成分のみを施肥し肥料のコストを下げる他に、肥料の収益率を決めるもう一つの重要な要因は、バナナの生産者価格です。バナナは生鮮果物なので、輸送距離は商品の価値に大きく影響を与えます。いくら肥料が収穫量を増やすとしても、市場から遠い僻地では肥料の使用は、経済的に合理的な判断ではなくなってしまします。こういうところで頑張って普及活動をしても不毛です。ただ、道路が整備されたりすると状況が一変します。ウガンダは2011年の次期大統領選挙を控え現ムセベニ政権の元、道路整備を至る所でやっています。農民の市場へのアクセスは間違いなく改善するので、肥料の収益率が上がり、肥料の使用がペイする地域が拡大するのは間違いないでしょう。

*マトケはウガンダの多くの地域の主食。青いバナナの皮をむき、芋煮の要領で煮、マッシュポテトの要領で潰して出来上がり、という簡単な料理です。因みにバナナ自体もマトケと呼ばれます。


バナナ。大きい一房で約4−5ドル。カンパラで買うと倍の値段。




左の皿の黄色いペーストがマトケ。アシスタントの実家に寄ったときにご馳走になりました。

2010/01/06

Matatu Strike

年明け早々、ナイロビ市民の足である乗合バス(matatu)の組合が、仕事初めの月曜日から「警察官のハラスメントをなんとかせいや」と抗議のストライキを始めました。街は混乱していたのですが、先日、オディンガ首相が出てきて「何とかするから」と、ストライキは収束に向うようです。

ストのおかげでこの2、3日、普段マタトゥを利用している市民は歩いて仕事に通ってます。私は車で出勤しているのですが、朝夕車道の脇を歩いている市民を普段の数倍見かけます。昨日はいつも利用しているガスステーションで給油したら、夜勤明けの顔見知りの従業員が私の職場の近くまで乗せていって欲しいと頼んできました。彼の話だと皆4時起きで街まで3、4時間かけて歩いてるとのこと。

安全のためということで2004年から交通法規が厳しくなり、乗合バスでもシートベルトの着用が義務づけられ、定員規制が厳しくなりました。また、去年の暮に騒音規制も厳しくなり、マタトゥの車掌の客引きのための口笛・大声やカーステレオのサウンドも規制の対象となり、マタトゥドライバーが逮捕されるということもありました。こうしたマタトゥ営業に関わる規制が強化されたことで、交通警官のマタトゥ運転手へのツッコミどころが多くなり賄賂の要求が以前よりも激しくなってきているようです。Daily Nationの記事によると、ナイロビ市内で営業しているマタトゥのオーナーの1日の利益は10,000sh (1USD=75.4sh、2009/1/6時点)で、その中から警官への賄賂やムンギキへのみかじめ料などの不法な支払いとして、1,000shくらい支出しているようです。

ストライキ中にも少数ですが、マタトゥが客を乗せて走っているのを見かけました。マタトゥのオーナーからみかじめ料として徴収される資金はムンギキの活動資金に使われているし、ムンギキの構成員がマタトゥの運転手や車掌をやっていることもあるようです。このマタトゥ産業とムンギキの密接な関係を知ると、スト破りの制裁は怖くないのだろうか、と他人事ですが心配になってしまいました。

昨日のDaily Nationには、モンバサでスト破りのマタトゥを燃やした若者たちが捕まっている写真が載ってました。

参照URL1,参照URL2