2009/10/22

男女間教育格差の縮小とムンギキ(ヤクザ)の関係

昨日のDaily Nationによると、先日から高校(Secondary School)の卒業試験(Kenya Certificate of Secondary Education Exam)が始まったのですが、セントラル県では、女子の受験者数が男子のそれよりも多かったそうです。男女間の格差は年々縮まってはいましたが、受験者数で女子が男子を超えるのは初めてのことだそうです。記事では「このトレンドはジェンダー活動家の勝利」と続きますが、更にオチがつきます。教育関係の役人によれば、この傾向はムンギキ*と児童労働と酒とドラッグによるところも多いとのこと。つまり、男子の方が中退してムンギキに入ってしまったり、酒や薬に溺れて中退してしまったりするケースが多いようです。セントラル県の地域別の統計によると、ムンギキの拠点と言われている、ニエリ(Nyeri)とムランガ(Murang'a)で特に男子の受験者数が女子に比べ少ないようです。ジェンダー活動家も素直に喜べないかな?

*ムンギキは独立闘争の時にセントラル県で生まれたキクユ族の集団で、暴力で植民地政府に対抗した。独立後、犯罪者集団となり、社会問題となっている。

2009/10/21

HIVワクチンの有効性

BBCのサイトにHIVワクチンについての記事が出ていました。記事によるとタイで行われた18歳から30歳の16000人の異性愛者を対象としたランダム化比較試験(RCT)で、混合ワクチンの接種で感染リスクが31%低下するとの結果が得られたそうです。対照群の8000人(偽薬を処方された人)のうち74人が3年後の追跡調査で感染が確認され、一方、治験群では、8000人(ワクチンを処方された人)のうち51人が感染していたそうです。「感染リスクの31%の低下」とは何を意味するのか、語句を読んだだけでは分らなかったのですが、文中の数字を拾って確認できました。「感染リスクX%の低下」とは X=(対照群の感染者数-治験群の感染者数)/対照群の感染者数*100、と定義されるようです。(因に31%=(74-51)/74です。)つまり、「ワクチンを接種しなかった感染者に対して、接種していたら感染しなかっただろうと予測される感染者の割合」と解釈できそうです。

これほど大規模なRCTでのHIVワクチンの有効性の検証は初めてだったようで、しかも「統計的に有意な効果」が得られていますから、この研究成果は色々なメディアに取り上げられているようです。ただし、なぜ感染リスクが低下したのかという肝心のメカニズムが分っていないようなので、評価は微妙です。

また専門家の間では、統計的な処理に疑問の声が上がっているようです。何せ、対照群と治験群の感染者の数が、それぞれ8000人中の74人と51人ですから、微妙ですよね。簡単な計算で確かめられますが、確かに、このデータをもとに対照群と治験群の平均の差の検定(t検定)をやってみると、p値が0.039ですので、有意水準5%で「グループ間で平均が等しい」という帰無仮説を棄却します。でも、もし仮に治験群の感染者数が2人増えて53人になったら、p値は0.061になり、「統計的に有意ではない」結果になってしまいます。同様に、感染者が対照群で2人減っても同様な結果(p値=0.057)が得られます。感染者の1人、2人の違いで結果の統計的な有意性が変わってしまうので、希事象(rare event)を扱っている統計学者はデータの処理に特に慎重でなければなりません。この研究でも、治験群の被験者から計画通りのワクチンを接種を一度でもミスした者を除くと、グループ間の感染率平均の差が統計的に有意で無くなってしまうそうです。

これを書いていたら、色々と興味が湧いて来てしまいました。元論文を読んでみた方が良いですね。読んだら報告します。

2009/10/15

感想:おいしいコーヒーの経済論

辻村英之氏のおいしいコーヒーの経済論を読みました。著者はタンザニアの農村で長く調査されている研究者で、調査地の主要換金作物であるコーヒーの生産・流通プロセスを通じて垣間見えるアフリカ農村の農業・貧困問題を扱った一般向け書物を何冊か書かれています。この本でもタンザニアでの経験・観察を出発点とし、コーヒーの価格変動に対してあまりにも脆弱な小規模農家、農村の現状を紹介し、コーヒー生産・流通・消費のプロセスを詳しく見ることで浮かび上がるコーヒーの価格形成の不公正さを訴え、最後に、不公正是正のためにその取り組みが始まったフェアトレードの意義とその可能性を紹介しています。

私もアフリカの農村の研究に携わっているのですが、甚だ無知なので非常に勉強になりました。ただ、著者の意見と異なる点も幾つかありました。一つだけ上げるとすると、フェアトレードに対するアフリカの農業・貧困問題を解決する手段としての期待感の違いですね。著者は多いに期待しているようですが、私は慎重派です。勿論、今後成功事例が増え効果が実証されれば、慎重派を撤回しますが、今のところ目立った成功は出ていないし(知らないだけかもしれませんが)、問題点も多いのではないでしょうか。

まず、問題として考えられるのはフェアトレードが価格のゆがみ(Price Distortion)を生んでしまうことです。Tim Harfordなんかはフェアトレードに露骨に反対しています。コーヒー価格の下落はそもそも世界的な供給超過で起きたんだから、もうこれ以上コーヒーはいらない。フェアトレードで市場価格にプレミアムを上乗せしたら、更に供給が増えてしまう。すると市場価格が下落して、フェアトレードに参加できない多くの零細農家が被害を被るのではないか、と言っています。また、零細農家支援の目的で行われるフェアトレードですが、その支援としての効率性も低いようです。Economist(12/07/2006)の記事によると市場価格に上乗せされるフェアトレードプレミアムのうち生産者に渡るのは僅か10%だそうです。

経済学者の中ではフェアトレードに賛成なのは少数派なのではないでしょうか。勿論少数派の意見が間違っているということではありません。ただ、フェアトレードの現状を良く知る著者にはこの辺にも言及して頂きたかったです。

2009/10/09

An Interim Report on Field Experiment in Uganda

8−9月にかけてウガンダで行っていたメイズの販売実験のデータを前回カンパラへ行った時に受け取っていたのですが、データのクリーニングに予想以上に時間がかかり中々分析に着手できませんでした。先日やっと簡単なグラフを作成しました。ハイブリッド種の需要曲線です。縦軸が価格(正確に言うと価格指数:市場価格=100になってます)、横軸が一戸当りの平均購買量(需要量)(キログラム)になってます。対象家計を3タイプに分けて、それぞれの需要曲線を描いてみました。家計のタイプは、2−3月に行った無償配布実験での処遇に対応していて、1)種と肥料の無料配布を受けた家計(Treatment)、2)受けなかったけど受けた家計と同じむらに住んでいる家計(Neighbor)、3)配布を受けていない村にすんでいる家計 (Control)となっています。上のパネルは後払い(credit)オプションがない場合、下のパネルは後払いオプションが利用可能な場合の需要曲線になっています。





いかがでしょう。予想通りの結果になってます。当たり前過ぎ?でも我々の少量のハイブリッド種の無償配布というsmall push がウガンダ農民のハイブリッド種に対する需要を創出してるってのを証明できてるでしょ。近隣への波及効果も結構あるようですね。後払いオプションの効果も大きいですね。

少し残念なのは、販売実験での価格設定が市場価格から2割引価格という範囲でしか変化をつけられなかった点です。値引きし過ぎると頭の回転の良い農民が大量に買って、近所の農民や卸売り店に再販売してしまうというケースが考えられたので、値引きする場合でも価格は卸売価格と市場価格との間に設定しなければならない、というのは仕方なかったんですけどね。でもその価格帯だと需要量がそんなに変化していないでしょ。もう少し下の価格帯での需要量も見たかったですね。それでもあまり需要量が増えないようだと購入量は価格以外の要因で決まっているということが分って、政府が補助金出して肥料と種子を低価格で提供する政策が意味があるのかないのか、踏み込んで議論できたように思います。

それでも今のところ結果は上々。まだまだ分析途中ですが、今回は素材が絶品(と信じている)なので巧く料理したら面白い論文に仕上がりそう。良いジャーナル狙っちゃいます。欲を言えば農業インプット関連の民間業者とか援助機関とかも巻き込んで、もっとでかいプロジェクトにしたいですね。