2012/04/27

Nairobi Branch 閉店のお知らせ

ご報告遅れましたが、3月末でNairobi Branchを閉め日本に帰国致しました。ケニアで過ごした3年の間に貴重な体験を色々とさせて頂きました。特に、多くの調査を実施したこと、また調査通じて、色んな地域をを訪れ沢山の人々の話を伺うことができたことで、研究者としての知見を大幅に広げることができました。今後暫くは研究の成果を世に知らしめるべく執筆活動に注力したいと考えております。その進捗をこの場でも報告していきたいと思います。

2012/01/17

またまたガソリン不足

昨日、車の燃料タンクが空になりかけていたので、 職場に行く途中 ワイヤキ道沿いのガソリンスタンドに寄ったらガソリンがない。で2件目もない。そして3件目もない。何かあったのか?4件目いつもなら入らないようなシャビーなスタンドに入ると、やっとありました。暫くガソリンを入れられない可能性もあるので、取り敢えず満タンにして一安心。

今回のガソリン不足の背景は今日のDaily Nationの記事にありました。原因は小売業者が燃料の市場価格の下落を予想し、元売からの購入を買い控えていたことがあるようです。つまり、高い卸売価格で元売から今日買い、数日後に市場価格が大幅に下がってしまうと、利ざやがマイナスになってしまうという状況を予想し、小売業者が買い控えをし、品不足になったというわけです。

でも、品不足になるくらいですから、卸売価格が急に下がったとしても、在庫を抱えている小売業者が急に小売価格を下げる必要は無く、そうすると市場価格も急には下がらず、徐々に下がって行きそうなものです。だとすると、小売業者は、燃料の卸売価格の下落を気にして、買い控える必要もなく、急な品不足は起らなそうなものです。

なのにガソリン不足が起こってしまう訳は、ケニア特有の事情があります。新聞記事には解説はありませんが、燃料価格の規制にあります。ケニアの燃料価格は、エネルギー規制委員会(Energy Regulatory Commission)が上限価格を規定していて、それに違反した小売業者は罰金(100万シリング)を納めなければなりません。上限価格は、ある公式にその時の卸売価格と輸送費などを代入すると決まるようになっているので、卸売価格の変動が、上限価格に直接影響します。このために、卸売価格が下落すると、小売価格の上限も自動的に下落する仕組みになっているのです。だから卸売価格の大幅な下落が予想されると、買い控えなんかが起こるんです。

価格統制が無ければ、そんなことも起こらないんですけどねえ。以前の記事にも価格統制の弊害を書きましたが、価格統制が消費者の利益に繋がるケースは非常に稀です。ですが、「国民の必需品の価格がある水準以上には上がらないように規制しよう」というのは、一見良い政策に聞こえ、国民受けが良く、だから政治的にも人気の政策なんですよね。

こういう一見良さげな、でも実は国民の利益を損ねる政策に、国民の多くがダメだしできるように経済学を勉強しよう。

それにしてもこの国では、色んな理由で色んな物が品不足になるなあ。

2012/01/03

明けましておめでとうございます。

ケニアでの研究生活もあと二ヶ月半となってしまいました。思い残すことないよう全力で取り組んでいきたいと思います。この様な長期に渡る研究の機会を与えてくださった大学・恩師・同僚の皆さまには、言葉に変えられない程の感謝の気持ちでいっぱいです。また、研究生活を支えてくれている家族、特に妻には本当に心から "Asante sana. Ninakupenda sana." と思っております。私を支えてくれる皆様のご好意に少しでも答えられるよう、今年は研究の成果を世に出すべく尽力する所存です。

ちょいと固かったですが、今年の抱負でした。\(^O^)/
今年はブログ更新するぞ。目標週一。

2011/06/08

論文執筆の合間に

先週、留学時代の指導教官がナイロビに来ていて、最近の研究の内容をじっくり話す機会があり、久しぶりにアドバイスをもらった。開発経済学系の学術雑誌のEditorを長年やってるだけあって、最近の研究動向をよく知っている。そこで、ここ2日間は彼のコメントを踏まえて、論文のイントロおよび先行研究のセクションを書きなおしている。

イントロは一番苦手なところだ。同業者の方は同感してくれると思うけど、分析の記述は簡単なんだよね。式や表を説明するだけだから。でも一番大事なのはイントロ部分、そこで読んでもらえるかどうかが決まるから。次に苦手なのは、先行研究の紹介。このパートでは、これまでに何が分かっていて何が分かっていないかを文献を交えて解説し、論文の売りを強調する。沢山の著作物を有機的に分類し、研究の流れを分かりやすく纏めるって難しい。(沢山読まなければいけないし。)私見だと、サイエンス系に比べて経済学の論文は、この先行文献のパートがとても長い。特に、幅広いテーマを対象とするトップジャーナル(AER, QJE, JPE, etc)は専門が異なる多くの読者がいるだけあって、しっかりと書かれている。なので良いジャーナルを狙うならこの部分も手を抜けない。(Public health関係の仕事をされている方に、経済系のHIV-AIDSのテーマを扱った論文を紹介したら、その長さに驚いていた。)

今日の午前中は、論文の筆がなかなか進まないので、参考文献覧に載せているにも関わらず、読んでいなかった有名な古典的論文を読んでみた。有名なので内容は間接的に大体知っているというシロモノ。

Hybrid Corn: An Exploration in the Economics of Technological Change by Zvi Griliches in Econometrica 1957.

20世紀初頭から半ばまでのアメリカでのハイブリッド・コーンの種の普及について書かれた論文なんだけど、最後の文章は、「アフリカで技術普及がなぜか進まない」という言説を聞く度に私も常々思っていることなので、引用しておく。
On the whole, taking account of uncertainty and the fact that the spread of knowledge is not instantaneous, farmers have behaved in a fashion consistent with the idea of profit maximization. Where the evidence appears to indicate the contrary, I would predict that a closer examination of the relevant economic variables will show that the change was not as profitable as it appeared to be.
普及しない技術は儲からない(便益が小さい)技術ということ。便益が大きければ普及のスピードも早いんだよね。携帯・モバイルマネーの普及のスピードが、そのことを裏付けている。便利な技術・儲かる技術はアフリカでも普及する。

アフリカでも道路・情報ネットワークなどのインフラが格段に良くなってきている。市場・情報へのアクセスが改善され、ある技術・商品が潜在的に儲かる地域が急速に拡大している。つまり、「誰も使っていない」から「皆が使う」状態へ移行するであろう技術が沢山あるってこと。どういう技術・商品がその条件を満たすか、歴史、他の地域の経験がヒントを与えてくれる。今ならアイデア勝負で、成功するビジネスが沢山あるはず。まさに今がアフリカ進出、投資のチャンスだと思いませんか?

それにしても、話が大分それたな。こんなんだからliterature reviewが書けないんだ。

2011/05/06

National Council for Science and Technology Annual Conference

先日(5/3)知合いに頼まれて、ケニアのNCST(科学技術評議会 or 委員会?)の年総会で発表して来ました。事前にプログラムを頂いていなくて(どうやらプログラムは会議の直前まで完成していなかったらしい。ケニアらしいでしょ。)、どういう会議なのか良く理解しないまま、自分の発表の30分前に会場(Kenyatta International Conference Centre、ナイロビで一番大きな会議場)に到着して、プログラムを見て仰天。私の出番は、なんと、オープニングセレモニーの直後のKeynoteではありませんか。大きな会議室に入ると、高等教育省の大臣、日本国大使館公使、その他お偉いさんがステージ上に着席されていて、NCSTの長官が発表していました。プログラムによると長官の発表の直後に私の出番。聞いてないっす。しかし、意外に落ち着いていて、スーツ着て来て良かったとか思いつつ(直前まで、ジーンズとジャケットで行こうか迷ってた)、折角なので大臣にも発表を聞いてもらいましょうとか思っていました。長官の発表も終盤にさしかかり、流石にドキドキしてきて、深呼吸、深呼吸。その緊張感を「楽しめ、楽しめ」と自分に言い聞かせつつ待機していたら、アナウンスが入り、どうやらティーブレイクが入るらしいことが判明。大臣他お偉いさんらは退場。なんだよ、俺の発表は聞かないのか。少し残念。

ティーブレイク後、セッション再会。3割くらいの聴衆はどこかに行ってしまいましたが、いつもの学会よりもずっと多い。30分のつもりで用意してきて、プログラムでも30分割り当てられているのに、セッションのチェアに20分でお願いしますと、しれっと言われ、発表開始。聴衆を見回すと少しざわついていて、あまり聞いてない。とっさにスワヒリ語で挨拶を始めてみました。”Mimi ni Tomoya. Ninatoka Japan lakini sasa ninaishi Nairobi kufanya kazi ya utafiti. Ninataka kuongea kuhusu utafiti ya Uganda leo.” とっさのアドリブでしたが、 効果テキメンで皆こちらに注目してくれました。発表は色々な所ですでに発表している農業の技術普及に関する論文だったので、無難にこなせたと思います。たぶん。発表後、何人かの聴衆が話しかけてきました。皆私がスワヒリ語がペラペラだと思っている。本当は幾つか言い慣れたフレーズがある程度なんですけどね。

今回は、何人かのケニア人研究者と知合いになれたので収穫ありでした。

2011/03/28

ブログ再開

忙しくなるとすぐ更新しなくなり、更新しない期間が長引くと、なかなか再開できなくなる。ブログの「引きこもり」の様な状態が続いてる。なんとも情けない。始めたときはもう少し、軽いネタを書いていたんだが、だんだんと重くなり、終いには「書くからには、私にしか書けないことを誰にでもわかるように書く」という課題を勝手に課して、書けなくなっていた。論文や本を書いているわけじゃないんだから、読者が沢山いるわけでもないんだから、文章を書く練習と、思いついたアイデアの備忘録として、これからは、もう少し気楽に書いてみたい。

2010/10/14

民間セクターが担う農業普及活動

少し前の話になるが、ケニアのWestern県とNyanza県に視察旅行に出かけた時に、Oyugis*でユニークな活動をしている農業インプット販売店(agrovetもしくはstockistと呼ばれている)の店主(Mr. Innocent)に出会った。店は地方の販売店には珍しく、綺麗に整理整頓されていて、奥に接客用のスペースまであった。雰囲気が少し他の販売店とは違うなと思いつつ、店主に色々話を聞いてみると、経営面で面白い話が幾つも出てきた。忘れないうちに記録しておきたいと思う。

彼は店の近所に小さい実験圃場を設置して、そこで新しいインプットや農業技術のデモンストレーションをしていている。時には販売する種子や肥料(あるいは農法)を使う区画と使わない区画を隣り合った場所に設置し、収量を比較するといった対照実験も行っているそうだ。その圃場に月2回程顧客を招待しワークショップを開き技術指導を行い、紹介した種子・化学品・肥料などを販売している。

民間セクターでは種子メーカーや流通業者が、商品の販促のためにデモンストレーション農園で技術指導を行う事はあるが、個人経営の販売店が独自に行っているケースは珍しく、驚いた。私が知っているのは高々ウガンダとケニアの事情だが、小売店の農業普及活動はBBCのWeb記事以外聞いたことが無かった。しかも、商売として成立し顧客も増えているそうで、中々やるもんだと感心した。

現代の農業技術は高収量種や化学薬品などの商品に体化しているものが多いので、技術普及が商品の販売と直接結びつくケースが多い。だから商品の販売促進のため、メーカーや販売店が普及活動をするインセンティブはある。ただし、普及活動がメーカーであれば自社製品の販売に、販売店であれば自分の店での販売に繋がらなければならない。普及活動をしても参加した農家が、他のメーカーの似たような商品を買ったり、他の販売店の商品を買ったりしては、利益に繋がらず、意味が無いからだ。だから、メーカーが自社製品を売るためには製品の差別化が必要で、メーカーが実施する普及活動ではその製品の違いをアピールしている。一方、製品の差別化が出来ない販売店では、Innocentの店で行っている様に、顧客登録をしてもらい顧客の囲い込みが必要である。顧客を囲い込むためには、ある程度顔の見える関係を築くこと大事なので、Oyugisがあまり大きな街でないのも、成功している理由かもしれない。

販売店による普及活動と商品販売の抱き合わせのビジネスモデルの成功ケースを見ると、逆に、何故これまでやられていなかったんだろう、また、何で他の店はやらないんだろうという疑問が湧く。

これまでこうした販売店がなかった理由は、ビジネスモデルも一種のイノベーションなので、そうしたアイデアを思いつき実践する人がこれまで居なかった、ということだろう。ただし、マーケットが、これまで以上にそうしたビジネスモデルが成功し易い環境へと変化しているのも事実だ。ケニアでも多くの地域で道路が良くなり市場へのアクセスが改善しているし、土地の稀少性が増し単収を上げる技術への潜在的な需要も高まっている。つまり、技術のリターンが以前より大きくなっているのだ。

他の販売店の中から追随者が出てくるがどうかは、先駆者の成功に掛かっているが、私は、Innocentの店の成功で、似たようなことを始める店が多数出て来るのではないかと予想している。どの地域でも上手く行くとは思わないが、上手く行く地域では、公的機関が行う普及活動よりも技術普及に貢献するだろう。

一般に公的機関が担う農業普及は、その非効率性が問題になることが多い。普及員があまり活動しない、あるいは、技術を紹介してもなかなか普及しないという話は良く聞く。前者は、普及員のインセンティブ・システムの構築が困難なことに起因する。後者は、紹介する技術が農民の利益に繋がらない場合が儘あるからだと思う。ある技術が儲かるか儲からないかは場所とタイミングに大きく左右されるので、プランナーによる技術の選択は容易ではない。更に、公的資金や援助で行われる場合、紹介される技術がその場所に不適合でも普及活動はしばらく続く。こうした要因で、公的な農業普及の効率性が上がらないのだ。

少なくとも、農業のポテンシャルのある地域では、農業技術の普及に対する民間部門の役割は大きくなっていくだろう。

もう一つInnocentの店で驚いたのは、彼の店では登録した優良顧客に対し、商品の信用売りをしていたことだ。担保はとらず、無利子で、支払いは収穫の後で良いという、何とも気前の良いサービスを提供していた。しかも、去年の旱魃で収穫がほとんど台なしだった時は、返済を更に1シーズン待ってあげたそうだ。信用売りをする顧客の条件は、顧客登録後6ヶ月以上たっていて、ワークショップに参加し、やる気のあるヤツだそうだ。信用売りを始めた当初は、貸し倒れが何件かあったそうだが、現在の貸出ルールを確立してからは、貸し倒れは殆ど無いらしい。ここでも、顔の見える関係を構築していることが、このシステムが機能する重要な要因になっているようだ。現金を貸すのとは違い、無駄遣いする可能性がある訳ではないので、どういう人物でどの位の土地・資産を持っているかが分かれば、返済できるかどうかの判断は難しくない。経済学で言うところの、貸し手と借りての間の情報の非対称性(貸し手が借り手のタイプが分からない)による逆選択の問題が小さいケースなのである。

今回の視察旅行でMr. Innocentと会えたお陰で、技術普及・小規模金融の発展の鍵は民間に有ということを再確認した。

*OyugisはKisiiから車で北へ30分くらいの所にあるNyanza県の街である。