2009/12/12

貯蓄制約とモバイルマネー

「貯蓄制約(savings constraints)」という言葉はあまり聞き慣れませんが、Dupas and Robinson (2008)のタイトルの一部で、フォーマルな金融サービスへのアクセスが悪く、安全に貯蓄する手段が無い状況を指しています。論文では、この貯蓄制約のせいで、途上国の人々は効率的に資産を構築できずに色々と不利益を被っているのではないか、そうだとすれば、安全に貯蓄する手段を与えてあげれば、色々と良いことがあるのではないかという期待のもと、流行りのフィールド実験を2006/07年にかけてケニアで行います。対象はブマラ(ウガンダの国境に近い小さな町)の小規模自営業者で、無作為に選んだ被験者の約半数に、村の銀行の貯蓄口座を利用できるオプションを与えます。

この銀行の口座を開設するための費用は通常450Ksh(1USD=75.6Ksh 2009/12/08現在)で、金利は無く、引出し手数料がかかります。手数料は引出し額500Kshまで30sh、500shから1,000shまで50sh、1,000sh以上は100shとなっています。金利0%に加えこの手数料ですから、実質的に名目金利もマイナスです。インフレ率が高いので実質金利は当然マイナスです。(ちなみに、2007年のインフレ率は13%。)それなら、タンス預金の方が良いではないかと思うかもしれませんが、家で現金を蓄えるというのも中々難しいんです。現金を手元に置いておくと盗まれるかもしれないし、ついつい誘惑に負けて使ってしまったり、夫にせびられたりかもしれない。また、拡張家族(extended family)内の助け合いは当然ですから、親戚の子の入学金が必要だとか、おばさんが病気だと言われれば金を貸さない訳にはいかないんです。手元にお金が無ければ、そういう個人資産形成を阻む要因をいくらか回避できるようなんです。

フォーマルな金融サービスへのアクセスが限られているからといって、タンス預金以外の貯蓄の手段が無い訳ではありません。ケニアでは、メリーゴーラウンドというROSCA(Rotating Savings and Credit Association)が非常に一般的で、多くの人々が職場の同僚と、同業者と、あるいは近所の友人などとROSCAグループを作り資産形成やメンバー間のお金の貸借を行っています。取引費用を考慮すると、メリーゴーラウンドもやはりマイナス金利での貯蓄になるので、タンス預金より良い理由を学者があれこれと考察しています。

例えば、Gugerty (2007)はメリーゴーラウンドへの参加は貯蓄へコミットするための手段だ、と言っています。要するに手元にあると誘惑に負けて使っちゃうから、簡単には使えないようにROSCAに参加して半強制的に貯蓄するってこと。Anderson and Baland (2002)は、キベラ地区(ナイロビの最大のスラム)で、既婚女性のメリーゴーラウンドの参加率が高いことに着目し、特に女性が配偶者から資産を守るツールとしてのROSCAの機能にフォーカスしています。

これなら、フォーマルな金融サービスへのアクセスが無くてもさして困らなそうですが、メリーゴーラウンドではお金の引き出しのタイミングの融通が効かないというデメリットがあります。典型的なメリーゴーラウンドでは一月に一回程度開かれる会合で10-15人程のメンバーが一定額を拠出し、プールしたお金をメンバーの一人が順番でもらいます。自分の順番がどのくらいの頻度で回ってくるかは、会合の頻度とメンバーの数で決まってきますが、典型的なものでは半年から1年半に一度です。誰が次にもらうかは事前に順番が固定されているので、お金が入用なとき自由に引き出せるというものではないのです。(ただし、私の友人などからの情報では、プール金をもらう順番を譲りあったり、金銭で取引したりと割と弾力的な運用をしているケースも多いとのことです。)あとデメリットが他にあるとすれば、ROSCAは定期的に会合に参加するのが必須ですから、機会費用が高い個人は定期的な会合に出るのが負担になるかもしれません。(多くの人は月に一度の友人との楽しい会合と喜んで参加しているようですが。)

ちょっと話がそれましたが、Dupas and Robinson が行った実験では、口座開設のための費用はプロジェクトで肩代わりし、治験群の被験者は無料で口座を開設できるようにしています。この口座開設から18ヶ月間の治験群、対照群の両被験者の行動を観察し、口座開設の効果を分析しています。分析結果は、治験群の中で実際に口座を開設し、運用した割合は女性の方が高く、彼女たちのビジネスへの投資は統計的に有意に増加したそうです。消費財の支出も増えており、所得への正の効果を示しています。また、銀行口座への貯蓄が増えても、他のインフォーマルな貯蓄(ROSCA)をクラウディングアウトしたという証拠もない、というものでした。

サンプル数が少なく、統計的にちょいと曖昧な部分もあるのですが、もしこの結果が本当でかつ他の地域への一般化も可能だとすれば、現時点ですでに田舎でもかなり普及しているモバイルマネー(Safaricomのm-pesaなど)の家計への影響は相当あるはずです。M-pesaは2007年3月にモバイル・ネットワーク・プロバイダーであるSafaricomが提供を始めたサービスで、預金、送金の手段として、その取引手数料の安さと携帯電話での簡単な操作で取引可能な利便性の高さから、人気がすごいんです。なんせ、普及のスピードがすごい。下のグラフ、青いラインがm-pesaの利用者、赤いラインがm-pesaの取扱い店舗数です。



m-pesaの取引手数料は実験で使われた貯蓄口座のものよりずっと安いし、Safaricomのシムカードを持っていたら、20KshでM-pesaアカウントを開設できるんです。治験群に与えられた「村の銀行で貯蓄口座を開設できるオプション」よりずっとましなサービスですから、そのビジネスへの効果、所得への効果は大きいはず。また、他者の目に容易に見えない形で個人の資産形成が低コストで可能になるということですから、長期的には色々な方面に影響が出そう。拡張家族間の互恵的な助け合いという文化にも影響がでるだろうし、家族内での資産・資源配分の変化による夫婦間の力関係にも影響しそう。

十年後には、ケニアでも核家族化が進み、女性の地位が向上してるかも?少子化も来るか?

追記:この間 mpesaアカウントを開設しました。登録料は無料でした。Feb 18, 2010

2009/12/01

宇宙時間における高度文明

船便で送ってもらった荷物を最近受け取ったのですが、文芸春秋8月号が入っていました。その中で、石原慎太郎氏がアメリカ的な物質文明の破綻を説くのに、ホーキング博士来日講演(20年くらい前)での博士と観衆とのやりとりに言及しているのですが(p135)、古い話で恐縮ですが、ちょっと面白かったのでやり取りの部分だけ抜粋します。
「この宇宙に地球ほどの文明をもった星がいくつぐらいあるのでしょうか」
「二百万ぐらいあるでしょうか」
「その中には地球より進んだ文明をもつ星も当然あるはずなのに、我々が実際に宇宙人や宇宙船を目にすることがないのはなぜか」
「地球ぐらいの文明をもつと自然の循環が狂って来て、加速度的に不安定になる。そういう惑星は、宇宙時間では瞬間的に滅びてしまうからだ」

安易に危機感を煽動する終末説には全く与しませんが、「宇宙時間」で考えたらそりゃ瞬間的に滅びるわな、と妙に納得してしまいました。宇宙物理学なんかやっていて「宇宙時間」というスケールで考えていたら当然の結末なのでしょう。

人口はどんどん増えてるし、一人当たりの消費量も増えてるのに、地球の資源は限られている。10年とは言わないが100年経ったら人類は滅んでるかもしれない、と素朴に思う人は多いと思います。が、Paul Romer は
Human beings possess a nearly infinite capacity to reconfigure physical objects by creating new recipes for their use.

と言っています。経済学者は楽観的な人が多いのでしょうか。私の好きな経済史家のEsterlineも何十年も前、マルサス的な終末説が騒がれたときに、「人口爆発」なんて起きないって言ってたし。これは今んとこあたってるかな。タイで少子化対策を考えてるそうだからね。

あーあ、「宇宙時間」で考えると自分の仕事のなんとみみっちいことか。くだらない考えはよして、論文書こう。

2009/11/03

最低賃金

たまたま、経済学者のblogをチェックしてたら、一橋大学で「貧困にどう立ち向かうか-一橋エコノミストの提言-」というシンポジウムが12月2日開かれることを知りました。ざっとプログラムを見ると、川口大司さんの「最低賃金の貧困対策としての有効性」という実証研究が目に留りました。経済学者の間では、最低賃金の導入は、労働市場が競争的な場合、雇用を減らす、特に、設定される最低賃金以下で働いている、救済を最も必要とする人々の雇用を奪う、と不評な政策です。

しかし、実証的には最低賃金政策の雇用への効果は自明ではありません。最低賃金と雇用の微妙な関係に関しては、有名な論争があります。Card and Kruger(1994)が論争の種なのですが、そこではニュージャージー州の最低賃金の引き上げが雇用を減らすという仮説を統計的に棄却し、逆に雇用を増やすという意外な実証結果を報告しています。その論文では、電話アンケートという形でニュージャージー州とお隣のペンシルベニア州のハンバーガーショップの賃金と雇用のデータを、最低賃金政策が施行される前と後の時期のデータを集め、その期間の雇用の変化を州の間で比較しています。いわゆる計量経済学で言う所の「差の差(Difference in Difference)」の検定です。その比較から前述の意外な効果の「統計的に有意」な結果を導き出しました。

それに対しNeumark and Wascher(2000)は、同地域のハンバーガーショップの賃金台帳(payroll record)を元に再検証すると、最低賃金政策の雇用への負の「統計的に有意」な効果が得られる、とCard and Krugerの結論に反証を突きつけます。Card and Kruger(2000)では再反論が展開され、Neumark and Wascherでは雇用の計測の仕方が違う(悪い)から違う結果が出ている、そこを修正したら賃金台帳のデータを使っても、「ニュージャージー州の最低賃金の引き上げが雇用を減らした」という仮説はやっぱり統計的に棄却される、と主張します。(ただし、雇用への正の効果の主張は取り下げて、少しトーンダウンしています。)という具合に微妙なんです。ランダム化実験が流行るのもわかるでしょ。実際に観察されるデータを用いた分析だと、データの取り扱い、分析のメソッドで結果が変わってきてしまうことが良くあるんです。この欲求不満が、今の開発経済でのフィールド実験の流行に繋がっています。

で、ふと「ケニアに最低賃金ってあるのだろうか」と思ってググってみると、ありました。ケニアでは最低賃金法の実効力はほとんどない思われますが、少なくとも形式的には存在しているんですね。Daily Nationの今年の5月1日(メーデー)の記事で紹介されていました。労働大臣がケニアの最低賃金をあげるとメーデーのイベントで宣言して、大衆から喝采を受けたようです。ちなみに、最低賃金(月額)は農業で3,043シリング(約40米ドル)、ナイロビ・モンバサ・キスム(ケニアの主要都市)の一般の職種で6,130シリング(約81米ドル)だそうです。

7月にリフトバレーとニヤンザへ調査に言った時の聞き取りだと、農村での賃労働は草取り半日(朝から昼まで、約4−5時間)でだいたい70−100シリングでした。多くは最低賃金以下で働いています。さて、もし仮に、ここに実効力のある最低賃金が導入されたらどうなるでしょう?

2009/10/22

男女間教育格差の縮小とムンギキ(ヤクザ)の関係

昨日のDaily Nationによると、先日から高校(Secondary School)の卒業試験(Kenya Certificate of Secondary Education Exam)が始まったのですが、セントラル県では、女子の受験者数が男子のそれよりも多かったそうです。男女間の格差は年々縮まってはいましたが、受験者数で女子が男子を超えるのは初めてのことだそうです。記事では「このトレンドはジェンダー活動家の勝利」と続きますが、更にオチがつきます。教育関係の役人によれば、この傾向はムンギキ*と児童労働と酒とドラッグによるところも多いとのこと。つまり、男子の方が中退してムンギキに入ってしまったり、酒や薬に溺れて中退してしまったりするケースが多いようです。セントラル県の地域別の統計によると、ムンギキの拠点と言われている、ニエリ(Nyeri)とムランガ(Murang'a)で特に男子の受験者数が女子に比べ少ないようです。ジェンダー活動家も素直に喜べないかな?

*ムンギキは独立闘争の時にセントラル県で生まれたキクユ族の集団で、暴力で植民地政府に対抗した。独立後、犯罪者集団となり、社会問題となっている。

2009/10/21

HIVワクチンの有効性

BBCのサイトにHIVワクチンについての記事が出ていました。記事によるとタイで行われた18歳から30歳の16000人の異性愛者を対象としたランダム化比較試験(RCT)で、混合ワクチンの接種で感染リスクが31%低下するとの結果が得られたそうです。対照群の8000人(偽薬を処方された人)のうち74人が3年後の追跡調査で感染が確認され、一方、治験群では、8000人(ワクチンを処方された人)のうち51人が感染していたそうです。「感染リスクの31%の低下」とは何を意味するのか、語句を読んだだけでは分らなかったのですが、文中の数字を拾って確認できました。「感染リスクX%の低下」とは X=(対照群の感染者数-治験群の感染者数)/対照群の感染者数*100、と定義されるようです。(因に31%=(74-51)/74です。)つまり、「ワクチンを接種しなかった感染者に対して、接種していたら感染しなかっただろうと予測される感染者の割合」と解釈できそうです。

これほど大規模なRCTでのHIVワクチンの有効性の検証は初めてだったようで、しかも「統計的に有意な効果」が得られていますから、この研究成果は色々なメディアに取り上げられているようです。ただし、なぜ感染リスクが低下したのかという肝心のメカニズムが分っていないようなので、評価は微妙です。

また専門家の間では、統計的な処理に疑問の声が上がっているようです。何せ、対照群と治験群の感染者の数が、それぞれ8000人中の74人と51人ですから、微妙ですよね。簡単な計算で確かめられますが、確かに、このデータをもとに対照群と治験群の平均の差の検定(t検定)をやってみると、p値が0.039ですので、有意水準5%で「グループ間で平均が等しい」という帰無仮説を棄却します。でも、もし仮に治験群の感染者数が2人増えて53人になったら、p値は0.061になり、「統計的に有意ではない」結果になってしまいます。同様に、感染者が対照群で2人減っても同様な結果(p値=0.057)が得られます。感染者の1人、2人の違いで結果の統計的な有意性が変わってしまうので、希事象(rare event)を扱っている統計学者はデータの処理に特に慎重でなければなりません。この研究でも、治験群の被験者から計画通りのワクチンを接種を一度でもミスした者を除くと、グループ間の感染率平均の差が統計的に有意で無くなってしまうそうです。

これを書いていたら、色々と興味が湧いて来てしまいました。元論文を読んでみた方が良いですね。読んだら報告します。

2009/10/15

感想:おいしいコーヒーの経済論

辻村英之氏のおいしいコーヒーの経済論を読みました。著者はタンザニアの農村で長く調査されている研究者で、調査地の主要換金作物であるコーヒーの生産・流通プロセスを通じて垣間見えるアフリカ農村の農業・貧困問題を扱った一般向け書物を何冊か書かれています。この本でもタンザニアでの経験・観察を出発点とし、コーヒーの価格変動に対してあまりにも脆弱な小規模農家、農村の現状を紹介し、コーヒー生産・流通・消費のプロセスを詳しく見ることで浮かび上がるコーヒーの価格形成の不公正さを訴え、最後に、不公正是正のためにその取り組みが始まったフェアトレードの意義とその可能性を紹介しています。

私もアフリカの農村の研究に携わっているのですが、甚だ無知なので非常に勉強になりました。ただ、著者の意見と異なる点も幾つかありました。一つだけ上げるとすると、フェアトレードに対するアフリカの農業・貧困問題を解決する手段としての期待感の違いですね。著者は多いに期待しているようですが、私は慎重派です。勿論、今後成功事例が増え効果が実証されれば、慎重派を撤回しますが、今のところ目立った成功は出ていないし(知らないだけかもしれませんが)、問題点も多いのではないでしょうか。

まず、問題として考えられるのはフェアトレードが価格のゆがみ(Price Distortion)を生んでしまうことです。Tim Harfordなんかはフェアトレードに露骨に反対しています。コーヒー価格の下落はそもそも世界的な供給超過で起きたんだから、もうこれ以上コーヒーはいらない。フェアトレードで市場価格にプレミアムを上乗せしたら、更に供給が増えてしまう。すると市場価格が下落して、フェアトレードに参加できない多くの零細農家が被害を被るのではないか、と言っています。また、零細農家支援の目的で行われるフェアトレードですが、その支援としての効率性も低いようです。Economist(12/07/2006)の記事によると市場価格に上乗せされるフェアトレードプレミアムのうち生産者に渡るのは僅か10%だそうです。

経済学者の中ではフェアトレードに賛成なのは少数派なのではないでしょうか。勿論少数派の意見が間違っているということではありません。ただ、フェアトレードの現状を良く知る著者にはこの辺にも言及して頂きたかったです。

2009/10/09

An Interim Report on Field Experiment in Uganda

8−9月にかけてウガンダで行っていたメイズの販売実験のデータを前回カンパラへ行った時に受け取っていたのですが、データのクリーニングに予想以上に時間がかかり中々分析に着手できませんでした。先日やっと簡単なグラフを作成しました。ハイブリッド種の需要曲線です。縦軸が価格(正確に言うと価格指数:市場価格=100になってます)、横軸が一戸当りの平均購買量(需要量)(キログラム)になってます。対象家計を3タイプに分けて、それぞれの需要曲線を描いてみました。家計のタイプは、2−3月に行った無償配布実験での処遇に対応していて、1)種と肥料の無料配布を受けた家計(Treatment)、2)受けなかったけど受けた家計と同じむらに住んでいる家計(Neighbor)、3)配布を受けていない村にすんでいる家計 (Control)となっています。上のパネルは後払い(credit)オプションがない場合、下のパネルは後払いオプションが利用可能な場合の需要曲線になっています。





いかがでしょう。予想通りの結果になってます。当たり前過ぎ?でも我々の少量のハイブリッド種の無償配布というsmall push がウガンダ農民のハイブリッド種に対する需要を創出してるってのを証明できてるでしょ。近隣への波及効果も結構あるようですね。後払いオプションの効果も大きいですね。

少し残念なのは、販売実験での価格設定が市場価格から2割引価格という範囲でしか変化をつけられなかった点です。値引きし過ぎると頭の回転の良い農民が大量に買って、近所の農民や卸売り店に再販売してしまうというケースが考えられたので、値引きする場合でも価格は卸売価格と市場価格との間に設定しなければならない、というのは仕方なかったんですけどね。でもその価格帯だと需要量がそんなに変化していないでしょ。もう少し下の価格帯での需要量も見たかったですね。それでもあまり需要量が増えないようだと購入量は価格以外の要因で決まっているということが分って、政府が補助金出して肥料と種子を低価格で提供する政策が意味があるのかないのか、踏み込んで議論できたように思います。

それでも今のところ結果は上々。まだまだ分析途中ですが、今回は素材が絶品(と信じている)なので巧く料理したら面白い論文に仕上がりそう。良いジャーナル狙っちゃいます。欲を言えば農業インプット関連の民間業者とか援助機関とかも巻き込んで、もっとでかいプロジェクトにしたいですね。

2009/09/20

ムセベニとブガンダ王国

先週の話になりますが、今回ウガンダに来る直前(9/10-11)にカンパラで暴動がありました。私がカンパラに着いた13日には街は平静を取り戻しておりましたが、街を警備する軍や警察の数がいつもより多かったです。ブガンダ国王がカンパラ近郊で開催された王国のセレモニーに参加しようとしたところ、ムセベニ大統領がダメ出しをして、怒ったブガンダ王国サポーター(バガンダ人)が抗議デモを行ったようです。一部が暴徒化しカンパラ中で道路を封鎖したり、古タイヤに火をつけたりして暴れていた所、警察隊と衝突し20名程が亡くなったようです。

ブガンダ王国は600年くらいの歴史があり、ウガンダに幾つかあった王国の中では最も強大な王国だったようです。カンパラとその周辺を統治していていました。1962年のウガンダ独立後も数年間は伝統的な部族に基づく王国統治が続いていたようですが、オボテ大統領が1966年に政権を取り、大統領の権限が大幅に強化され、伝統的な国王による地方の統治は廃止されたようです。現政権(1986−)のムセベニ大統領の元で、伝統的な王室(monarchy)は文化的制度として中央政府の管理下で復活しました。ウガンダ人口のマジョリティを占めるバガンダ人への人気取りの政策だったのでしょうが、最近国王の人気がありすぎて少々目障りな存在になってしまったんでしょうか、締め付けを強くしたら、国民の怒りが暴動という形で噴出したといったところです。

ムセベニ大統領は終身大統領になりたがっていますが、最近の国民の間での人気は今イチです。次の選挙強い対抗馬が出て来たらちょっと心配ですね。ケニアの大統領選の二の舞にならなければ良いのですが。

2009/09/19

Uganda Visit Again

またまた、ウガンダに来ています。今回は家計調査の準備です。今のところデスクワークが多くカンパラに缶詰です。来週から調査員のトレーニングとプレテストを行い。再来週から調査を始める予定です。調査員のトレーニングでは、質問表の埋め方、質問の仕方等を各員に理解してもらうこと、プレテストでは質問の意味が調査対象農家のおじさん・おばさんにきちんと理解してもらえるか、質問の意味が曖昧でないか等テストすることを目的としています。今回の調査は、従来通りの家計調査に加え、2、3月に行ったトウモロコシの高収量品種と肥料の無料配布実験の評価も兼ねているので、結果がでるのが楽しみです。

我々の調査は紙に印刷した質問表に調査員が鉛筆で記入しているのですが、ここ2、3年ほどPDAとか小型PCを用いて調査をしている調査チームの話をちらほら小耳に挟むようになりました。PDAを用いた調査の経験のある知人に聞くと、間違いが少なく、しかも調査が紙媒体を使った場合に比べ短時間で済むという話。調査後のデータ入力の作業も必要ないしね。ということはデータ入力時のミスも無くなる。良い事尽くめ。我々もそろそろ導入を考慮すべきでしょう。使うデバイスが高すぎたりしたら考えものですが、iPod Touchも19,800円で売ってるし。ということで、密かにアンケート調査用iPhoneアプリ計画を進めております。

2009/09/08

Field Experiment in Uganda その後2

(前回からのつづき)困った末に、思いついたのはハイブリッド種と化学肥料を販売する時に、各参加者に「もし値段がXだったら、どのくらい買いますか」という仮想的な質問を幾つかのXについてそれぞれ答えてもらう、というものです。当初考えていた参加者ごとに、または村ごとに値段設定を変えて販売するという方法では、各参加者からは一つの価格水準に対する需要量しか聞き出せませんが、この方法だと、幾つかの価格水準での需要量を聞き出す事ができます。ただし、仮想的な質問を聞くだけでは、本当に欲しい量かつ実際に買うことができる量を答えてくれるかどうかわからないので、真剣に答えてもらえるようにするのにちょっとした工夫が必要です。そこで、フィールド実験でのランダマイゼーションのための秘密兵器「ビンゴケージ」を使うことにしました。まず、参加者が質問表を埋め、その後に村の代表者に、ビンゴケージをガラガラやってボールを一つ選んでもらいます。次にその出た目に応じてXの値を確定し、そのXをもとに各参加者の質問表を参照し、それぞれが答えた量を実際に価格Xで販売します。どの価格水準でも実際に販売が行われる可能性があるので、参加者は本当にそれぞれの価格水準で購入したい量を答えてくれる(はず)、という仕掛けです。これだと村の中では参加者間で値段が違ったりしないので、不公平感もないし、再販売の心配も少ないだろうと思われます。

如何でしょう。聞くと「工夫ってそれだけか?」とお思いかもしれませんが、些細なことでも新たな工夫ってなかなか思いつかないものです(少なくとも私にとっては)。だいたい研究でも、研究の手法でも人まねがほとんどでしょ。兎に角、ちっぽけな工夫でも思いついて良かったです。思いつかなかったら、村レベルで価格水準を変えていたか、無理して個人レベルで変えていたか、いずれかでしたでしょうから、プロジェクトが始まる直前に思いついてラッキーだったと思います。(プロジェクトとの開始は雨期の到来の時期で決まっていたので、準備が万端でなくても、時が来たら始めなくては行けないという状況でしたからね。)

実際には、上記のような現金払いの場合の質問表に加えて、クレジット(後払い)オプションをつけた場合の質問表も使いました。後払いオプションがある場合、どのくらい需要が増えるのか知りたいでしょ。でも後払いオプションをつけると後で売掛け金を回収しに来なければならないとか、「どうせ回収しに来てもしらばっくれてれば、払わずに済むのだから、法外な量を買ってしまえ」と考える輩がでるのではとか、幾つかの問題が考えられます。どういうアレンジにしようか悩んだのですが、これまたいい方法を思いついたんです。ここでは詳しく触れませんが、近いうちに論文に書きますので乞うご期待。

今回は色々と神懸かり的にツキがあります。何とか最終成果を発表するまで、この運勢が落ちませんように。

2009/09/03

Field Experiment in Uganda その後

この間ウガンダで始めたフィールド実験第2弾、結構巧くいっているようです。私はプロジェクトが軌道に乗った時点でナイロビに戻ったのですが、携帯やSMSでコーディネーター達と連絡を取り、途中経過を報告してもらってます。今回は初めてづくしのプロジェクトでうまくいくかどうかとても心配だったのですが、嬉しい限りです。質問表のデザインも親分(共同研究者)に誉められちゃったしね。で、実験プロジェクトのさわりを報告しちゃいます。

この間報告したように、化学肥料とハイブリット種を以前からの調査対象の村々に売って回っているのですが、実験プロジェクトを始める直前まで、それらの価格をどうやって設定しようか悩んでました。悩みの種は、需要関数を推計したいので、価格に変化(安く売ったり、高く売ったり)をつけなくてはいけないんですが、どういうグループのレベルで変化をつけるのかってところです。つまり、村レベルで高く売る村と安く売る村を設定して、村レベルの価格の違いで需要量の差を見るのか、あるいは、村の中でも個人レベルで異なる価格を設定して個人間の価格の違いで需要量の差を見るのか、という点です。

前者の難点は、村レベルで価格を設定してしまうと、需要量の村落間の違いが、はたして本当に価格の違いから来ているのか、あるいはその他の村の特性、例えば、立地条件、気候条件、その他に由来するのか、という疑問(計量経済学でいう識別(identification)の問題)が生じてしまう点にあります。この問題は需要に影響を与えそうな特性と設定する価格が相関しないように、ランダムに村を選んで価格を設定すれば回避できる問題なのです(ランダム化実験の長所です)が、そうすると需要関数を村レベルで推定することになります。つまり村落間の需要量の違いを村落間の価格の違いで説明するということです。パネルデータ分析で言う所のBetween推定にあたります。この場合、村の数が推定の精度に大きく影響します。村の数が少ないと、精度が出ません。今回のプロジェクトの対象村は69村なのですが、第1弾の実験で、化学肥料とハイブリッド種を配った村と配っていない村があり、それぞれで需要関数を推計しようとしているので、統計的な検証をしようと思うと非常に心もとない(というか少なすぎる)村落数です。

そこで後者を採用したいのはやまやまなのですが、村の中でどうやって違う価格を設定するのかってのが問題です。同じ村で人によって提示する値段を安くしたり高くしたりできるでしょうか?サイコロやビンゴケージを使って、実験参加者自身にクジ引きをしてもらって、幸運だったら安い値段を、そうでなかったら高い値段を提示するってのも可能ですが、不公平だという人も出てくるだろうし、再販売(安い値段を提示された人が沢山買って、そうでなかった人に売る)の問題も出てくるかもしれません。更にアフリカの農村では公平性(fairness)は非常に重要な規範ですので、不公平だと文句が出るばかりでなく、もっと深刻なもめ事の種を提供してしまうかもしれません。それは避けたい。そういう具合で中々妙案が浮かびませんでした。

ぎりぎりまでどうしようか悩んでいましたが、マケレレ大学のゲストハウスでお気に入りのNile Special(ウガンダのビール)をたっぷり飲んで早寝をし、早起きをした次の朝、良い案を思いつきました。(つづく)

2009/08/27

国勢調査

先日、我が家にも国勢調査の調査員が来ました。新聞その他で告知されていた通り赤いシャツを来た調査員(女性が二人)がやって来て、家族構成にかんする質問など聞かれました。質問表はA3の大きさで2ページだけでした。所要時間は約10分で予想していたものよりずっと簡単なものでした。我々の調査ときたら、人の家にお邪魔して時に数時間も家計のことを根掘り葉掘り聞いているので、余計に簡単に感じました。我々の調査に協力して質問に答えて下さる方々の精神的・時間的な負担は相当なものでしょう。感謝を忘れず、成果を何とか世のため人のために役立てねば、とあらためて思いました。

2009/08/20

Field Experiment in Uganda

先週またまたウガンダに行ってきました。今回の目的は、調査対象農家に対するフィールド実験第二弾を実施するための準備および事前テストを行うことでした。ちなみに、第一弾は今年の2、3月に行ったハイブリッドメイズの種と肥料の無料配布実験です。(詳しくはこちら。)今回の実験は、前回無料配布した種と肥料を対象農家とその隣人に対し市場価格で販売するというものです。次の作付けシーズンが始まる前に対象の69村で実施します。予定では8月の最終週から始めるはずだったのですが、幾つかの地域で作付けの準備が始まりそうという情報が入り、計画を前倒しし急遽行ってきました。

第1弾の実験で配った種と肥料の評判はすこぶる良く、中には800キロもメイズがとれたという農家もいました。彼はそれを売ったお金でメスの子牛を買ったそうです。私の知る限り実験参加農家の中でこの農家がこれまでの最高の収穫量を記録しています。ちなみに、今年は特に天候が悪く、在来種だと1エーカーあたりだいたい500キロくらいの収穫量だそうです。配った種と肥料は、4分の1エーカー分のものでした。ただし、農家は肥料を使った集約的な農法に慣れていないので、実際にはもっと大きな畑に畝の間隔を広めにとって作付けしていました。それでも、ハイブリッドと在来種との収量の差は歴然でした。

今回の実験では、(1)一度ハイブリッド種や化学肥料を使ったあと、それら農業インプットに対する需要がその前と後でどのくらい変化するか、(2)直接使ってはいないが、対象農家の経験を見聞きした近隣農家の需要はどのくらい増えるか、(3)その需要は価格の変化に対しどのくらい反応するか、(4)後払いが可能なとき、現金前払いの時とくらべてどのくらい需要が増えるか、等々を明らかにすることを狙っています。種屋が率先してやってくれても良いようなことを実施する予定です。

今回は、プロジェクトが計画通りうまく運ぶかどうかテストするために、調査地を3カ所訪れて、その内2カ所で種と肥料を売ってきました。結局、2カ所で合計25人の実験参加者に対し約100キロ強のハイブリッド種を売りました。結果はまずまず?かな。対象村のまとめ役に事前に電話連絡をして、何時何時に種と肥料を売りに行くから参加者にその旨伝えてくれとお願いしているのですが、全ての参加者にはプロジェクトの主旨が伝わっておらず、買いたいけど現金の持ち合わせがないから買えないという参加者も多かったです。連絡が徹底していたらもっと売れていたでしょう。今後は同じ村に、プロジェクトの説明と販売のため二度訪れることでこの点は解決しました。ただ、農民がハイブリッド種に興味津々なのは確かです。今回も話を聞きつけたプロジェクト対象外の農家も覗きに来て、売って欲しいと頼まれました。残念ながら、4輪駆動車の荷台に種と肥料を積んで対象村に出向いているのですが、輸送のキャパがないので断りました。

売り方は工夫の余地が沢山あるだろうし、工夫すればもっと売れるだろうから、ハイブリッド種の販売ビジネスは美味しいと思うんですけどね。何で民間のサプライヤー達がもっと活発に参入してこないのでしょう。今まさに、これからって時なのでしょうか。民間セクターはアニマルスピリットで利益の上がるビジネスの臭いを嗅ぎ付け次々参入が起こるから、そうそう美味しいビジネスなんて残っていない、というのが一般の認識だと思いますが、現実はそうでもないって事かな。

2009/08/07

iPhone Application to Learn Swahili

スワヒリ語の個人レッスンを2ヶ月ほど前から受けているのですが、あまりにも記憶力が悪くて単語が覚えられない。そこでiPhoneで使える単語帳のようなアプリを探していました(昨日から)。良いヤツを発見しました。誰かが作った単語帳もダウンロードできるし、自分で編集するのも簡単だし、今のところ言う事無しです。iFliprというアプリです。専用のWebサイト、サーバーがあり、そこから既存の単語帳をダウンロードしたり、自分の単語帳をアップロードしたり出来るようになっています。私も単語帳を早速作って見ました。スワヒリ語に興味のある方かつiPhoneを使っている方は是非ダウンロードしてみて下さい。因に出てくる単語と例文は私が授業で習ったものです。授業は教科書を使わずに、思いついた文章に対応するスワヒリ語の表現を教わり、文法はその思いつきの文章の中に何か新しい語法が出て来たら教わるという、場当たり的な学習ですが、結構楽しいです。

Mukulu Slum

先週(7/30)の事なんですが、ナイロビにあるスラムの一つムクル地区(Mukulu slum)へ行ってきました。ケニアで活動するNGO関係者のグループが企画したツアーに参加させて頂きました。普段は農村家計の調査をしているので、都市の貧困層の居住区へは行った事がなかったんです。ナイロビは近年治安がどんどん悪化しているし、特にスラム周辺はケニア人ですら危ないですから、スワヒリ語もしゃべれない日本人の私にはスラムに一人で乗り込む度胸は到底ありません。その点、農村は良いですよ。のんびりしてて平和で。今回、こうしたツアーを企画される方々がいらっしゃって貴重な体験ができました。大変有り難かったです。

ナイロビ中心地からモンバサロードをジョモケニヤッタ国際空港へ向かい車で15分くらい走り、途中で左手に折れるとちょっとした街があります。更に左手に折れると、車がやっと一台通れるくらいの凸凹道になり、道路沿いの小さな商店、路上の物売り、その裏に密集するトタン屋根の住居でごちゃごちゃしてたところへやってきます。その周辺がMukulu地区です。

ツアーの目的は、シスター・ベロニカ(Veronica?)という女性が支援するワーキング・グループを見学し、彼女やグループのメンバーから話を聞くことでした。

彼女は元々農業普及員(現在も農業省に所属しています)で、農村を周り農民に農業技術などを教えていたそうです。(私の知る限り)アフリカの多くの国で農業普及員のサボタージュが問題になっているケースが多い中、彼女は例外的な情熱で仕事に取り組み、その活動が認められ、現在は農業省から特別に車とドライバーを与えられ、毎日違う地域に出かけては、ワーキング・グループに新しい技術・ビジネスを指南し貧困層を支援しているそうです。

このムクルスラムでは、教会を拠点に幾つかのワーキング・グループが活動していて、それぞれのグループが洗濯洗剤、ポテトチップス、絞り染めの衣服、アクセサリーの生産してました。製品は各メンバーが近所の住民に売っているそうです。これらのビジネスは全てシスター・ベロニカが教えたものです。初期投資もわずかで技術的にも簡単なビジネスですが、しっかり収益があがっているそうです。今後はこれらの商品を売る直売店を開いて事業規模を拡大するのが、メンバーの夢だそうです。

スラムの住民は農村出身で田舎で生活が困窮したため、仕方なく街に出てくる人が多いのですが、彼ら彼女らは教育もあまり受けておらず、都市部でもなかなか仕事を見つけられない。ビジネスを始めるにも資金はないし、知恵も無い。
更に、出身地もバラバラでお互い関係が希薄だから、中々共同で事業を始めるなんてことも難しいようです。でも、シスター・ベロニカの様なリーダーがいるとグループも纏まるし、事業も軌道に乗る。彼女も強調してましたが、貧困解消には付加価値を生み出す工夫、ビジネス・マインドが重要です。

このスラムでもあんな簡単そうで誰でも前からやってそうなビジネスが収益を生んでいるようですから、ビジネスをスラムで紹介するような支援活動なんか貧困対策に有効そうですよね。経済学でいう完全競争に近い状況では、利益の機会があると沢山の参入が起こり、そのせいで終いには利益の機会がなくなってしまいます。技術が容易で初期投資も少ないような産業の場合は、市場は競争的なはずなんです。だからそんな収益のしっかり出るしかも簡単なビジネスが、残されているとは考えないものなんですよね。現実はそんな状況とはほど遠いようです。今度、研究費が穫れたらフィールド実験してみようかな。

2009/07/25

Alumnus

同業者のBlogは新しい情報を得るのに非常に便利で有益なので、しばしば閲覧しています。IDEのhkonoさんのBlogもその一つなのですが、今度Jornal of Development Economicsに掲載されるGroup Lending に関する論文が紹介されていました。その論文の著者どこかで聞いた名前だな、と思い論文をダウンロードしフルネームを確認したら、やはり留学時代の一つ上の先輩でした。頑張ってるじゃありませんか。私も頑張らねば。

2009/07/17

Ruby program to convert GPX to KML

GarminのeTrexでtrackを記録したGISデータ(GPX形式)をGoogleEarthで見るのに、KML形式に変換するRubyプログラムです。前はそうした変換をGPSBabelというソフトでやっていたのですが、出力したKMLファイルがあまりきれいではなかったので、Rubyで作ってみました。(mybasic.rbが必要です。)


#!/usr/bin/ruby
=begin
trk2path.rb by Tomboya
>ruby trk2path.rb input.gpx
=end

require "~/myprg/ruby/mybasic"
require "rexml/document"

fname = ARGV[0]
data = REXML::Document.new(File.new(fname))
document = REXML::Document.new

kml = document.add_element("kml")
kml.add_namespace("http://earth.google.com/kml/2.0")

kml = kml.add_element("Document")
kml.add_element("name").text = fname

stylemap=kml.add_element("StyleMap")
stylemap.attributes["id"]="msn_ylw-pushpin"
pair = stylemap.add_element("Pair")
pair.add_element("key").text="normal"
pair.add_element("styleUrl").text="sn_ylw-pushpin"
pair = stylemap.add_element("Pair")
pair.add_element("key").text="highlight"
pair.add_element("styleUrl").text="sh_ylw-pushpin"

style=kml.add_element("Style")
style.attributes["id"]="sh_ylw-pushpin"
style.add_element("IconStyle").add_element("scale").text=1.2
linestyle=style.add_element("LineStyle")
linestyle.add_element("color").text = "ff1e15ff"
linestyle.add_element("width").text = 3

style=kml.add_element("Style")
style.attributes["id"]="sn_ylw-pushpin"
linestyle=style.add_element("LineStyle")
linestyle.add_element("color").text = "ff10fcff"
linestyle.add_element("width").text = 3

data.elements.each("gpx/trk"){|trk|
cord=""
time=[]
placemark=kml.add_element("Placemark")
placemark.add_element("name").text = trk.elements["name"].text

linestring=placemark.add_element("LineString")
linestring.add_element("tessellate").text = 1

coordinates=linestring.add_element("coordinates")
trk.elements.each("trkseg/trkpt"){|trkpt|
cord << trkpt.attributes["lon"] << ","
cord << trkpt.attributes["lat"] << ","
cord << trkpt.elements["ele"].text << " "
time << trkpt.elements["time"].text unless trkpt.elements["time"].nil?
}
coordinates.text=cord
placemark.add_element("description").text = "FROM #{time[0]} TO #{time[time.size-1]}" unless time==[]
placemark.add_element("styleUrl").text = "#msn_ylw-pushpin"
}

out=''
kml.write(out, 0, false, true)
mywrite("#{fname.split(".")[0]}.kml",[out])

2009/07/14

ケニア現地調査

先週はケニア国内のリフトバレーとニヤンザに行ってきました。今年の3月に同じ地域で調査を行ったのですが、日程の都合で私は参加出来ませんでした。そこで、今回は調査地周辺で、農民から話を聞いたり、近くの街で穀物や農業インプットの値段を聞いたりして、現場の感覚をアップデートしてきました。

前にリフトバレーに行ったのは2007年1-2月に家計調査を行ったときですから、約2年半ぶりでした。そういえば、あの時は「リフトバレー熱」という牛から人間にも感染する病気が流行だしたころで、調査チームのみんなはビーフ、ポーク、ヤギ肉を避けて鶏肉や魚ばかり食べてたっけ。

今回の視察で一番驚いたのは、幹線道路が見事に修復されていたことです。以前ナイロビからナクルを通って西へ向かった時は、穴ぼこだらけの道で車の中で飛び上がりながら行ったのですが、今回はスムーズでロスのハイウェー(2005年当時)よりましでしたね。帰りはキシからナロックを通ってナイロビに戻ったのですが、こちらも思った以上に路面状況は良かったです。30キロ程は改修中でしたが。

農家はあちこち全部で10件くらい訪問してきました。今回見て回ったケニアの農家はこの間見て来たウガンダの農家に比べ、取り入れている技術や知識のレベルがだいぶ進んでいますね。それは畑の様子を見ただけでわかります。ケニアではトウモロコシがきちっと密集して整列していますから。また、ウガンダと違って、化学肥料や高収量品種の使用に関してもかなりの年数の経験がありました。

ある農家で新しい技術の採用のきっかけを聞いたのですが、おばさん曰く「10年くらい前に農業普及員が肥料と高収量品種のサンプルを配ってくれて、そんときに使い方も教えてくれたんだ。それがさ、驚くほど穫れたんだよー。そん時から近所のみんなも使い始めたんだ。うちでもそれからずっと使ってるんだ。」(訳 by Tomboya)とのこと。有益な技術は、それが有益だってことが知られさえすればすぐに普及するんですよね。当たり前だけど。

ウガンダの農家は今回見て回ったケニアの農家と比べて、採用している技術に関して10年以上遅れている感じがしました。ただ、私の予測ですが、今ウガンダは丁度過渡期でこれからそうした技術が「わっ」と普及すると思います。なぜなら幾つかの要因が、高収量品種や肥料の相対的なリターンを大きくしていますから。まず、農村の人口成長率は非常に高く、一戸あたりの作付け面積はどんどん狭くなってきています。したがって潜在的にこれまで以上に集約的な農法の需要は高まっています。さらにインフラの整備で輸入インプットの値段は多少下がるだろうし、穀物価格も短期的に多少下がることはあっても、長期的には上がるだろうし。商人だったら、ウガンダで農業インプットの流通を手がけてみては如何でしょう。(なお、私の予測が外れていても責任はとれません。)今まで、色々な政府の機関やNGOが行って来た農業技術の普及のための活動が実を結ばなかったのは、その技術が大して有益じゃ無かったからなんですよ。たぶん。現在進行中のウガンダでのプロジェクトが終わったら、もう少し確かな事が分かるはずです。

2009/07/06

ウガンダ現地調査

ウガンダから先日帰ってきました。今年の2月に、以前からの調査対象家計に対しトウモロコシのタネ(高収量品種)を無償配布するというプロジェクトをスタートさせました。この時期は対象地域の多くで、配布したトウモロコシの種が成長し収穫期を迎える、もしくは迎えたばかりという時期です。今回の出張ではそのプロジェクトの経過を観察しに、無償配布の対象の農村60村のうち10村を見て回りました。今年は多くの地域で、雨期の到来が不規則で、雨量も不足しがちという不作の年になりそうで、一般にトウモロコシの収穫量も昨年よりずっと少ないようです。

しかし、我々が配って歩いた種子(DK8031)は、その悪条件の中、大健闘。農家も驚くほどで、「来シーズンも是非この種を使いたい」、「どこで買えるのか」といった質問を多数受けました。予想以上の反応で、私も若干興奮してしまいました。一番の驚きは「こんなに有効な技術が未使用のまま残されていた」ってことです。現在出回ってる高収量品種がどのくらい高収量なのかってのは、実験圃場の観察データなんかの数値は知っていましたけど、色々な条件をコントロールしている実験圃場とは全く異なる農民の畑レベルでどの程度なのかというのは、今回見て回るまで知りませんでした。なので、高収量品種の効果が、農民が驚くほどあるとは思ってもいませんでした。しかも、扱いが難しいという訳でもなさそうです。無償配布にあたって、2時間ほどのインプットの使用法に関するトレーニングも同時におこない、その講義をまとめたチャートも併せて配布したのですが、それで作付け方に関しては十分だったようです。

それほど有益な財(技術)が未使用だってことは、市場の原理「神の見えざる手」が機能していないってことです。一つの理由は、農民がこの有益な財を知らない、もしくは財の有益性を知らない、つまり、知識の欠如にあります。農民は知らないから買わない、誰も買わないから誰も売りにこない、だから市場が発展しない、もしくはそもそも存在しない、という状況です。更に、有益な財を利用していないから、貧しい、貧しいから買わない使わない、使わないから知らない、という悪循環に陥っているようです。所謂「貧困の罠」というやつです。

もう一つの理由は、街ではタネや肥料を売っている店があるにはあるのですが、紛い物が出回っている様なのです。紛い物のせいで、農民は地域の小売店から高価な高収量品種を買うのをためらいます。高収量品種を見た事も無い地方の農民には、高収量品種とその他のタネの見分けができません。タネは植えてから収穫まで時間がかかるので、発芽の状況さえ異常がなければ、買ってすぐにタネ屋に文句をつけるということはありません。収穫時期になって収量が低いと文句をつけても、収量が低くなる要因はいくらでもありますから、「お前のやり方が悪かった」と片付けられてしまいます。結局、紛い物のせいで需要が創出されない、という状況に陥っているようです。

これまでのプロジェクトで我々は農家からかなりの信頼を得ています。その証拠に農民は「あなた方が持って来たタネなら買う」と言っています。これで、もし対象農家から近隣農家へ波及効果で、近隣の農家も「そのタネ買った!」なんて事になれば、また、そのタネで所得が大幅に増えれば「我々はこんな小規模な介入で市場を創出できること、また、貧困の罠から脱出できることを証明した」って言えるかもしれません。そんなに甘くはないだろうけど。今後のプロジェクトに乞うご期待。

Jeffrey Sachs は、貧困の罠から人々が逃れるためには、包括的な介入が必要で、そのために援助の大幅な増額が不可欠と言うけど、「もしかしたら、小規模な介入"Small Push"で意外とすんなり貧困の罠から逃れられるんじゃないか」って気になっています。「要は”Push”の仕方だぜ」と。

それにしても、今のところこのプロジェクトうまく行き過ぎてる。うーん、重大な何かを見落としてるのかな?

2009/06/19

魔女狩り

昨日(June 18, 2009)のDaily Nation(ケニアの有力紙の一つ)に小さい記事で"Witch's hand seen in Coast poverty"というのがありました(p32)。記事は、ケニア投資機関(Kenya Investment Authority)が主催したCoast県の経済発展なんとか会議の要旨をまとめたものなのですが、要するに、後進的な伝統とか習わしなんかが、経済的な発展の足枷になっている、というものでした。県長官(Provincial Commissioner)の報告によると、魔術を操ったと疑われた老人が殺された事件なんかで、投資家がビビり投資案件がこの地域から逃げていってしまう、とのこと。記事では殺された老人は複数形になってましたから、その類いの殺人事件は一件だけではなく、複数あるのでしょう。ケニアにも有るんですね、この手の事件が未だに。

この記事で、Ted Miguelの2005年の「貧困と魔女狩り」というタイトルの論文を思いまだしました。タンザニアの村落の魔女狩り事件(老人が殺された殺人事件)と貧困との関係を検証した一見エキセントリックな論文ですが、経済学では上位にランクされる学術誌に掲載されてます。論文によると、タンザニアの農村で魔女狩りと称して年老いた人が殺されるケースがしばしばあるが、そうした殺人事件の頻度は貧困の程度が激しくなると増え、緩和されると減る。魔女狩りは、実は、貧困が原因で起こっている、とのこと。つまり、魔女だから、魔術を操る怪しいヤツだから殺されたのではなくて、天候不順やその他の理由で食べ物に極度に困ったときに、労働力にも大してならないし、抵抗も大してできない老人を口減らしのために殺している、ということです。

ケニアのCoast県の魔女狩りの場合も、同じ様なストーリーのもとで起こっているのではないでしょうか。ところで、CPが言ってた、怪しげな習わしのせいで投資が来ない、ってのは本当なのでしょうか。投資家が来ないのは収益率が低そうだからでしょ、おそらく。投資が来ないのを、取りあえずこの地域の悪習のせいにしておけば、誰も悪くないからね。

技術や環境の変化で、変わらないと思っていた古い伝統や習慣がコロっと変わることは良くある事だから、アフリカの風習もころっと変わるかもしれませんよ。少なくとも貧困がなくなれば、魔女狩りはなくなるでしょう。

2009/06/16

StataでMCMC

前から興味はあったのですが、専門が専門なんで殆どベイズ統計学を学ばずに今まで過ごして来ました。しかし、MCMCの隆盛を見るにつけ、どうしても学びたくなってしまいました。大森先生のHPから色々と教材を頂いて来て、ざっくり初歩の初歩を学習。もっと敷居が高いと思っていたけど、今のところ思ったより簡単。これなら簡単なモデルならプログラムかけるぞと思い、Oxで書かれたサンプルプログラム(normal.ox)を、使い慣れたStataに移植してみました。計算してみると...Stata遅い...です。これは使えないかな。Oxで1秒かかってないのに、21.78秒もかかってしまいました。走らせている環境が違うので単純には比較できないとは思いますが、遅すぎます。MCMCはおとなしくOxでやっていた方が無難かな。

*追記(6/17)今日同じプログラムをまわしてみたら、7.1秒でした!? Stataの名誉回復の為に、もう少し補足しておきますと、Stata10はWindowsバージョンで、Macのエミュレーター(VMFusion)上で走っています。なので多少(?)ハンディ有りという環境です。昨日はそのエミュレーター上のWinXPの挙動がおかしかったからな。


// MCMC_NORMAL.do for STATA BY TOMBOYA on June 16, 2009
clear

timer clear
timer on 1
// True parameters
scalar MUT=5
scalar VART=1

local n=100 // # obs
local r=1e4 // # repetitions
local nburn = 1e3 // # burn-ins

set obs `=`r''

// Data ganeration
gen x = rnormal(MUT,sqrt(VART)) in 1/`n'
qui sum x
scalar XBAR = r(mean)
scalar SUMSQDEVX = r(Var) * (`n'-1)

// prameters of prior
// mu|var ~ N(mu0,var0)
// var ~ InvGamma(a0,b0)

// prior parameter for mu
scalar MU0=0
scalar VAR0=1000

// prior parameter for var
scalar A0=1
scalar B0=1

// variables storing outcomes
gen double sqdevx = . // square of deviation of x from mu
gen double mu_ = .
gen double var_ = .

// initial guess of true parameters
scalar MU = XBAR
scalar VAR = SUMSQDEVX/(`n'-1)

// draw (mu,var) from conditional posterior function
forvalue i = -`nburn'(1)`r'{
// generate mu(i) given var(i-1) and x
scalar VAR1 = 1/ (1/VAR0 + `n'/VAR)
scalar MU1 = VAR1*(MU0/VAR0 + `n'*XBAR/VAR)
scalar MU = rnormal(MU1,sqrt(VAR1))

// generate var(i) given mu(i) and x using InvGamma(a,b)
// mean=a/b, variance=a/b^2
qui replace sqdevx = (x -MU)^2 in 1/`n'
qui sum sqdevx
scalar SUMSQDEVX = `n' * r(mean)
scalar A = A0 +`n'
scalar B = B0 + 0.5*SUMSQDEVX
// note that if x ~ Gamma(A,1/B), then 1/x ~ InvGamma(A,B)
scalar VAR = 1 / rgamma(A,1/B)

if `i'>0{
if mod(`i',1000)==0 dis "t=`i'"
qui replace mu_ = MU in `i'
qui replace var_= VAR in `i'
}
}
timer off 1
timer list 1

2009/06/08

Re-entry Pass

職場を通じて申請していたのですが、やっと取得できました。今後ケニアに仕事でいらっしゃる方のために以下私の経験を記します。

4月3日 ケニア入国
4月6日 初出勤
4月8日 職場の渉外課で就労許可書(Work Permit)の申請書をもらう。この時に家族のRe-entry Passの申請には、婚姻証明書(Marriage Certificate)と子供の出生証明書 (Birth Certificate) が必要なことを知る。また、戸籍謄本を日本大使館に持参すれば、婚姻証明書と出生証明書を発行してくれる、ということも知る。事前に調べとけという感じですよね。慌てて日本の家族に戸籍の取得と送付を依頼する。
4月21日 申請書類が全部揃い、職場で申請を依頼。
5月26日 渉外課から、もうすぐ取得できるからパスポートを持参せよ、とのメールを受け取る。
6月8日 職場の渉外課にRe-entry Passのスタンプが押されたパスポートが届く。

やっと取得できました。これでやっと引っ越し荷物を発送できます。渉外課からWork Permitなしでは輸入関税がかかるので、Work Permitが発行されるまで日本からの引越荷物の発送は控えた方が良いといわれていたのです。(でも、知り合いになった日本人の方々から、Work Permitは必要ない、職場からのレターが有れば問題ないのでは、との情報を最近入手しました。が、ここまで待ったので、万全を期して取得まで待ちました。)

2009/06/05

Deaton vs. Imbens

Levitt のblog (一ヶ月以上前の投稿ですが) で開発経済学の大御所 Deaton と Harvard の計量経済学者 Imbens のバトルが紹介されてました。フォローしとこ(Deatonの論文Heackman and Urzmaの論文Imbensの論文)。以下議論のざっくりとした要約です。間違ってたら指摘して下さい。

Deatonは、最近の開発経済学のはやりのフィールド実験や、あるいは労働経済学者の操作変数法やregression discontinuity design(訳語がわからん)による因果効果の推定 (impact evaluation)が大嫌いで、すごい勢いで攻撃しています。経済理論に基づかない回帰分析なんて全然役に立たない、もっと理論をもとに実証分析をデザインせよ、とのこと。やり玉に上がっている論文は有名な論文ばかりで、私が読んだときには、なるほどこうすればある政策の因果効果(causal effect)を識別(identify)できるのかと感心してしまったものばかりです。(例えば、Angrist and Lavy の小学校のクラスのサイズと子供の成績に関する論文やAcemoglu, Johnson, and Robinsonの植民地時代に宗主国が導入した制度の違いと現代のその国のパフォーマンスとの関係に関する論文など。)攻撃の焦点は、以下の2点(1)internal validity(2)external validity。(1)は因果効果の推定値が調査対象としている個体群のなかで妥当かどうかという議論で、他方(2)は因果効果の推定値を調査対象外の個体群に対して一般化できるかどうかという議論。Deatonの主張は、(1)に関しては、ある政策の効果を知りたいとき、操作変数法で推定できるのは高々LATE(Local Average Treatment Effect)で、これは本当に知りたいATE(Average Treatment Effect)とかATT(Average Treatment Effect on the Treated)とは一般に異なる。それらが等しくなる為には、沢山の仮定が必要で、そんなもの使いものにならん、もっと理論を用いてその効果が生まれるメカニズムを知ろうとしないと意味が無い、という。また、ランダム化実験(randomized experiment)をしたところで、ATEは推計できるけど、Median Treatment EffectとかQuantile Treatment Effectとか求まらないし、また個体ごとにTreatment Effectが異なる場合、その平均値の分散は自明じゃないから既存論文の多くの帰無仮説の検定も当てにならんし、さらに悪い事に経済学の文脈で理想的なランダム化実験なんか不可能だし、それならこれまで計量経済学が悪戦苦闘して来た識別の問題をクリアしてるとは全くもって言い難い。だから、ランダム化実験による因果効果の評
価なんて大した価値はない、とのこと。(2)に関しては、効果のメカニズムが分からないとランダム化実験だとか操作変数法だとかで、ある環境のもとでその効果を計測しても、環境が違ったらその計測値は役にたたんでしょ、と。

一方、LATEの理論を生み出したImbensはDeaton論文に対して反撃しています。論文のタイトルがイカしています、"Better LATE than Nothing"。Imbensはランダム化実験が可能なら、ランダム化実験から得られる証拠こそ最も信頼できるものだし、そもそも因果効果の識別の分野で、自然実験(natural experiment)を利用した操作変数法とかランダム化実験が浸透してきたのは、構造推定が役に立たなかったからだろ、とLalonde (1986)の論文を引用しつつ主張します。(Lalondeの論文では、ランダム化実験のデータを用いて職業訓練の効果を推定し、その推定値を、同じデータを用いて同様の効果を構造推定(Heckman Selection Model)した推定値とを比較し構造推定による推定結果がいかに加減かを示している。)また、Deatonが言うように、ランダマイズ実験でMedian Treatment Effectを推定できないけど、どんなメソッドだろうと余計な(しかもuntestableな)仮定なしで、そんなもん推定できないだろ、と。さらに、政策策定者が知りたいのは、Deatonが言ってるMedian Treatment Effect とかQuantile Treatment EffectとかといったTreatment Effect(Yi1-Yi0)の分布じゃなくて、Yi1とYi0それぞれの分布だろ、 と。(ここで、Yi1:Treatmentを受けた場合の結果、Yi0:Treatmentを受けなかった場合の結果、i は個体の識別子を表す。ちなみに、ここで議論している問題の元凶は、個体iに関して実際に観察できるのはYi1かYi0のどちらか一方なのに、E[Yi1-Yi0]とかYi1とYi0それぞれの分布を知りたいという欲求から来ている。)External validityに関しては、ランダム化実験が役に立たない訳ではなく、構造モデルを検証するのに使えるよ、だから構造モデルとランダム化実験の組み合わせが有用だよ、と。

開発経済学の分野では、MITのPoverty Action Labが牽引するフィールド実験の異常な盛り上がりに批判的な研究者も多いのですが、Deatonのようにここまで攻撃している論文は初めてではないでしょうか。しかし、Deatonも、経済理論から演繹される理論予測をフィールド実験で検証する、というごく最近の潮流はある程度評価しているようです(例えば、Todd and Wolpine (2006)とか Karlan and Zinman (2008)とか Giné and Karlan (2008)とか)。

学会の最先端のところでは激しい賞賛と批判に晒されて、学問自体が進化している感じがしますね。Deaton のような厳しい批判者もこの分野の発展を後押しするのに貢献しているといったところでしょうか。私がこの分野で生き残って行ける可能性はあるのでしょうか???

以下のはDeatonとImbensの論文で引用されていた面白そうな論文です。

Chattopadhyay, Raghabendra, and Esther Duflo, 2004, "Women as policy makers: evidence from a randomized controlled experiment in India," Econometrica, 72(5), 1409–43.

Todd, Petra E. and Kenneth I. Wolpin, 2006, "Assessing the impact of a school subsidy program in Mexico: using a social experiment to validate a dynamic behavioral model of child schooling and fertility," American Economic Review, 96(5), 1384–1417.

Urquiola, Miguel, and Eric Verhoogen, 2008, "Class-size caps, sorting, and the regression-discontinuity design," American Economic Review, forthcoming.

2009/06/03

Moyo vs. Sachs

Dead Aid の著者 Dambisa Moyo と The End of Poverty の著者 Jeffrey Sacks がアフリカ援助に関して熱いバトルを展開中。最近のSacksのMoyo批判はここ。ちなみに、Will Easterly も援助の発展への貢献に懐疑的なので、Moyo のサポーターに回っている模様。
Moyoはザンビア出身の才媛(HavardでSacksの授業も取っていたようだ)で、アフリカの貧困の援助悪玉説を説く。最近は、滑舌良く援助ダメダメと説くし、容姿もテレビ映えするし Dead Aid 出版以来、メディアに引っ張りだこのようす。 ググるとYouTubeの映像(例えば)が沢山見られるよ。
世銀のアフリカリージョンのチーフエコノミスト曰く「Moyoの言ってる事は当たってる事もあるけど、大概間違ってる」とのこと。
Moyoがあまりにもメディアで取り上げられてるので、援助関係者が躍起になって否定するのも無理は無い。アフリカへの援助が減ったら、自分の食い扶持も減るからね。ってことはおいらの食い扶持も減る???

丁度良い機会なので、援助の発展への貢献を分析したクロスカントリーデータを用いた実証分析(Burnside and Dollar, 2000 AER)を斜め読みしました。Easterlyがイチャモンをつけています(Easterly, Levine and Roodman, 2004 AER)。

やっぱり、クロスカントリー・リグレッションは趣味じゃないわ。

2009/05/29

Dynamic Discrete Choice (DDC) Model

ダイナミックな離散選択モデルの推定がしたくて、昔読んだ Hotz and Miller (1993) を復習。最近の文献もフォローしとこうと思いググると、Keane and Wolpin (2009)が眼に留まりダウンロード。これはDDC(彼らはDiscrete Choice Dynamic Programming (DCDP) と呼んでいる)のサーベイ論文で、DDCモデルを推定した論文を6本取り上げ、その結果を紹介し、最後に構造推定の利点と欠点を簡単に纏めている。第2章では静学モデルとの対比で動学モデルを紹介しているが、動学モデルは静学モデルのnatural extensionなんだ、ということが分かりやすく説明されている。なるほど、納得。最近の推定手法の発展にも触れているが、Imai and Jain (2007)をサイトしていたのでこちらもダウンロード。これもMCMC推定ですよ。

test

test from email

IFLS4

The Indonesia Family Life Survey 4 (インドネシアの家計調査データ)が公開されていました。IFLSデータを使った論文を何本か書いたのですが、まだ日の目を見ていません(つまり、ジャーナルにアクセプトされていません)。何とかせねばと常々思っていました。これを機にデータをアップデートして再チャレンジしよう。

2009/05/28

スワヒリ語クラス

同僚に紹介してもらった先生からスワヒリ語を習うことにしました。

Nafurahi kukutana nawe.
Jina langu ni Tomboya.
Ninasoma kiswahili.
Asante sana.

スワヒリ語の発音は日本語の発音が似ているから、日本人はうまくしゃべれる人が多いんだって。頑張りましょう。