辻村英之氏のおいしいコーヒーの経済論を読みました。著者はタンザニアの農村で長く調査されている研究者で、調査地の主要換金作物であるコーヒーの生産・流通プロセスを通じて垣間見えるアフリカ農村の農業・貧困問題を扱った一般向け書物を何冊か書かれています。この本でもタンザニアでの経験・観察を出発点とし、コーヒーの価格変動に対してあまりにも脆弱な小規模農家、農村の現状を紹介し、コーヒー生産・流通・消費のプロセスを詳しく見ることで浮かび上がるコーヒーの価格形成の不公正さを訴え、最後に、不公正是正のためにその取り組みが始まったフェアトレードの意義とその可能性を紹介しています。
私もアフリカの農村の研究に携わっているのですが、甚だ無知なので非常に勉強になりました。ただ、著者の意見と異なる点も幾つかありました。一つだけ上げるとすると、フェアトレードに対するアフリカの農業・貧困問題を解決する手段としての期待感の違いですね。著者は多いに期待しているようですが、私は慎重派です。勿論、今後成功事例が増え効果が実証されれば、慎重派を撤回しますが、今のところ目立った成功は出ていないし(知らないだけかもしれませんが)、問題点も多いのではないでしょうか。
まず、問題として考えられるのはフェアトレードが価格のゆがみ(Price Distortion)を生んでしまうことです。Tim Harfordなんかはフェアトレードに露骨に反対しています。コーヒー価格の下落はそもそも世界的な供給超過で起きたんだから、もうこれ以上コーヒーはいらない。フェアトレードで市場価格にプレミアムを上乗せしたら、更に供給が増えてしまう。すると市場価格が下落して、フェアトレードに参加できない多くの零細農家が被害を被るのではないか、と言っています。また、零細農家支援の目的で行われるフェアトレードですが、その支援としての効率性も低いようです。Economist(12/07/2006)の記事によると市場価格に上乗せされるフェアトレードプレミアムのうち生産者に渡るのは僅か10%だそうです。
経済学者の中ではフェアトレードに賛成なのは少数派なのではないでしょうか。勿論少数派の意見が間違っているということではありません。ただ、フェアトレードの現状を良く知る著者にはこの辺にも言及して頂きたかったです。
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