BBCのサイトにHIVワクチンについての記事が出ていました。記事によるとタイで行われた18歳から30歳の16000人の異性愛者を対象としたランダム化比較試験(RCT)で、混合ワクチンの接種で感染リスクが31%低下するとの結果が得られたそうです。対照群の8000人(偽薬を処方された人)のうち74人が3年後の追跡調査で感染が確認され、一方、治験群では、8000人(ワクチンを処方された人)のうち51人が感染していたそうです。「感染リスクの31%の低下」とは何を意味するのか、語句を読んだだけでは分らなかったのですが、文中の数字を拾って確認できました。「感染リスクX%の低下」とは X=(対照群の感染者数-治験群の感染者数)/対照群の感染者数*100、と定義されるようです。(因に31%=(74-51)/74です。)つまり、「ワクチンを接種しなかった感染者に対して、接種していたら感染しなかっただろうと予測される感染者の割合」と解釈できそうです。
これほど大規模なRCTでのHIVワクチンの有効性の検証は初めてだったようで、しかも「統計的に有意な効果」が得られていますから、この研究成果は色々なメディアに取り上げられているようです。ただし、なぜ感染リスクが低下したのかという肝心のメカニズムが分っていないようなので、評価は微妙です。
また専門家の間では、統計的な処理に疑問の声が上がっているようです。何せ、対照群と治験群の感染者の数が、それぞれ8000人中の74人と51人ですから、微妙ですよね。簡単な計算で確かめられますが、確かに、このデータをもとに対照群と治験群の平均の差の検定(t検定)をやってみると、p値が0.039ですので、有意水準5%で「グループ間で平均が等しい」という帰無仮説を棄却します。でも、もし仮に治験群の感染者数が2人増えて53人になったら、p値は0.061になり、「統計的に有意ではない」結果になってしまいます。同様に、感染者が対照群で2人減っても同様な結果(p値=0.057)が得られます。感染者の1人、2人の違いで結果の統計的な有意性が変わってしまうので、希事象(rare event)を扱っている統計学者はデータの処理に特に慎重でなければなりません。この研究でも、治験群の被験者から計画通りのワクチンを接種を一度でもミスした者を除くと、グループ間の感染率平均の差が統計的に有意で無くなってしまうそうです。
これを書いていたら、色々と興味が湧いて来てしまいました。元論文を読んでみた方が良いですね。読んだら報告します。
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