2009/07/06

ウガンダ現地調査

ウガンダから先日帰ってきました。今年の2月に、以前からの調査対象家計に対しトウモロコシのタネ(高収量品種)を無償配布するというプロジェクトをスタートさせました。この時期は対象地域の多くで、配布したトウモロコシの種が成長し収穫期を迎える、もしくは迎えたばかりという時期です。今回の出張ではそのプロジェクトの経過を観察しに、無償配布の対象の農村60村のうち10村を見て回りました。今年は多くの地域で、雨期の到来が不規則で、雨量も不足しがちという不作の年になりそうで、一般にトウモロコシの収穫量も昨年よりずっと少ないようです。

しかし、我々が配って歩いた種子(DK8031)は、その悪条件の中、大健闘。農家も驚くほどで、「来シーズンも是非この種を使いたい」、「どこで買えるのか」といった質問を多数受けました。予想以上の反応で、私も若干興奮してしまいました。一番の驚きは「こんなに有効な技術が未使用のまま残されていた」ってことです。現在出回ってる高収量品種がどのくらい高収量なのかってのは、実験圃場の観察データなんかの数値は知っていましたけど、色々な条件をコントロールしている実験圃場とは全く異なる農民の畑レベルでどの程度なのかというのは、今回見て回るまで知りませんでした。なので、高収量品種の効果が、農民が驚くほどあるとは思ってもいませんでした。しかも、扱いが難しいという訳でもなさそうです。無償配布にあたって、2時間ほどのインプットの使用法に関するトレーニングも同時におこない、その講義をまとめたチャートも併せて配布したのですが、それで作付け方に関しては十分だったようです。

それほど有益な財(技術)が未使用だってことは、市場の原理「神の見えざる手」が機能していないってことです。一つの理由は、農民がこの有益な財を知らない、もしくは財の有益性を知らない、つまり、知識の欠如にあります。農民は知らないから買わない、誰も買わないから誰も売りにこない、だから市場が発展しない、もしくはそもそも存在しない、という状況です。更に、有益な財を利用していないから、貧しい、貧しいから買わない使わない、使わないから知らない、という悪循環に陥っているようです。所謂「貧困の罠」というやつです。

もう一つの理由は、街ではタネや肥料を売っている店があるにはあるのですが、紛い物が出回っている様なのです。紛い物のせいで、農民は地域の小売店から高価な高収量品種を買うのをためらいます。高収量品種を見た事も無い地方の農民には、高収量品種とその他のタネの見分けができません。タネは植えてから収穫まで時間がかかるので、発芽の状況さえ異常がなければ、買ってすぐにタネ屋に文句をつけるということはありません。収穫時期になって収量が低いと文句をつけても、収量が低くなる要因はいくらでもありますから、「お前のやり方が悪かった」と片付けられてしまいます。結局、紛い物のせいで需要が創出されない、という状況に陥っているようです。

これまでのプロジェクトで我々は農家からかなりの信頼を得ています。その証拠に農民は「あなた方が持って来たタネなら買う」と言っています。これで、もし対象農家から近隣農家へ波及効果で、近隣の農家も「そのタネ買った!」なんて事になれば、また、そのタネで所得が大幅に増えれば「我々はこんな小規模な介入で市場を創出できること、また、貧困の罠から脱出できることを証明した」って言えるかもしれません。そんなに甘くはないだろうけど。今後のプロジェクトに乞うご期待。

Jeffrey Sachs は、貧困の罠から人々が逃れるためには、包括的な介入が必要で、そのために援助の大幅な増額が不可欠と言うけど、「もしかしたら、小規模な介入"Small Push"で意外とすんなり貧困の罠から逃れられるんじゃないか」って気になっています。「要は”Push”の仕方だぜ」と。

それにしても、今のところこのプロジェクトうまく行き過ぎてる。うーん、重大な何かを見落としてるのかな?

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