2009/06/19

魔女狩り

昨日(June 18, 2009)のDaily Nation(ケニアの有力紙の一つ)に小さい記事で"Witch's hand seen in Coast poverty"というのがありました(p32)。記事は、ケニア投資機関(Kenya Investment Authority)が主催したCoast県の経済発展なんとか会議の要旨をまとめたものなのですが、要するに、後進的な伝統とか習わしなんかが、経済的な発展の足枷になっている、というものでした。県長官(Provincial Commissioner)の報告によると、魔術を操ったと疑われた老人が殺された事件なんかで、投資家がビビり投資案件がこの地域から逃げていってしまう、とのこと。記事では殺された老人は複数形になってましたから、その類いの殺人事件は一件だけではなく、複数あるのでしょう。ケニアにも有るんですね、この手の事件が未だに。

この記事で、Ted Miguelの2005年の「貧困と魔女狩り」というタイトルの論文を思いまだしました。タンザニアの村落の魔女狩り事件(老人が殺された殺人事件)と貧困との関係を検証した一見エキセントリックな論文ですが、経済学では上位にランクされる学術誌に掲載されてます。論文によると、タンザニアの農村で魔女狩りと称して年老いた人が殺されるケースがしばしばあるが、そうした殺人事件の頻度は貧困の程度が激しくなると増え、緩和されると減る。魔女狩りは、実は、貧困が原因で起こっている、とのこと。つまり、魔女だから、魔術を操る怪しいヤツだから殺されたのではなくて、天候不順やその他の理由で食べ物に極度に困ったときに、労働力にも大してならないし、抵抗も大してできない老人を口減らしのために殺している、ということです。

ケニアのCoast県の魔女狩りの場合も、同じ様なストーリーのもとで起こっているのではないでしょうか。ところで、CPが言ってた、怪しげな習わしのせいで投資が来ない、ってのは本当なのでしょうか。投資家が来ないのは収益率が低そうだからでしょ、おそらく。投資が来ないのを、取りあえずこの地域の悪習のせいにしておけば、誰も悪くないからね。

技術や環境の変化で、変わらないと思っていた古い伝統や習慣がコロっと変わることは良くある事だから、アフリカの風習もころっと変わるかもしれませんよ。少なくとも貧困がなくなれば、魔女狩りはなくなるでしょう。

2009/06/16

StataでMCMC

前から興味はあったのですが、専門が専門なんで殆どベイズ統計学を学ばずに今まで過ごして来ました。しかし、MCMCの隆盛を見るにつけ、どうしても学びたくなってしまいました。大森先生のHPから色々と教材を頂いて来て、ざっくり初歩の初歩を学習。もっと敷居が高いと思っていたけど、今のところ思ったより簡単。これなら簡単なモデルならプログラムかけるぞと思い、Oxで書かれたサンプルプログラム(normal.ox)を、使い慣れたStataに移植してみました。計算してみると...Stata遅い...です。これは使えないかな。Oxで1秒かかってないのに、21.78秒もかかってしまいました。走らせている環境が違うので単純には比較できないとは思いますが、遅すぎます。MCMCはおとなしくOxでやっていた方が無難かな。

*追記(6/17)今日同じプログラムをまわしてみたら、7.1秒でした!? Stataの名誉回復の為に、もう少し補足しておきますと、Stata10はWindowsバージョンで、Macのエミュレーター(VMFusion)上で走っています。なので多少(?)ハンディ有りという環境です。昨日はそのエミュレーター上のWinXPの挙動がおかしかったからな。


// MCMC_NORMAL.do for STATA BY TOMBOYA on June 16, 2009
clear

timer clear
timer on 1
// True parameters
scalar MUT=5
scalar VART=1

local n=100 // # obs
local r=1e4 // # repetitions
local nburn = 1e3 // # burn-ins

set obs `=`r''

// Data ganeration
gen x = rnormal(MUT,sqrt(VART)) in 1/`n'
qui sum x
scalar XBAR = r(mean)
scalar SUMSQDEVX = r(Var) * (`n'-1)

// prameters of prior
// mu|var ~ N(mu0,var0)
// var ~ InvGamma(a0,b0)

// prior parameter for mu
scalar MU0=0
scalar VAR0=1000

// prior parameter for var
scalar A0=1
scalar B0=1

// variables storing outcomes
gen double sqdevx = . // square of deviation of x from mu
gen double mu_ = .
gen double var_ = .

// initial guess of true parameters
scalar MU = XBAR
scalar VAR = SUMSQDEVX/(`n'-1)

// draw (mu,var) from conditional posterior function
forvalue i = -`nburn'(1)`r'{
// generate mu(i) given var(i-1) and x
scalar VAR1 = 1/ (1/VAR0 + `n'/VAR)
scalar MU1 = VAR1*(MU0/VAR0 + `n'*XBAR/VAR)
scalar MU = rnormal(MU1,sqrt(VAR1))

// generate var(i) given mu(i) and x using InvGamma(a,b)
// mean=a/b, variance=a/b^2
qui replace sqdevx = (x -MU)^2 in 1/`n'
qui sum sqdevx
scalar SUMSQDEVX = `n' * r(mean)
scalar A = A0 +`n'
scalar B = B0 + 0.5*SUMSQDEVX
// note that if x ~ Gamma(A,1/B), then 1/x ~ InvGamma(A,B)
scalar VAR = 1 / rgamma(A,1/B)

if `i'>0{
if mod(`i',1000)==0 dis "t=`i'"
qui replace mu_ = MU in `i'
qui replace var_= VAR in `i'
}
}
timer off 1
timer list 1

2009/06/08

Re-entry Pass

職場を通じて申請していたのですが、やっと取得できました。今後ケニアに仕事でいらっしゃる方のために以下私の経験を記します。

4月3日 ケニア入国
4月6日 初出勤
4月8日 職場の渉外課で就労許可書(Work Permit)の申請書をもらう。この時に家族のRe-entry Passの申請には、婚姻証明書(Marriage Certificate)と子供の出生証明書 (Birth Certificate) が必要なことを知る。また、戸籍謄本を日本大使館に持参すれば、婚姻証明書と出生証明書を発行してくれる、ということも知る。事前に調べとけという感じですよね。慌てて日本の家族に戸籍の取得と送付を依頼する。
4月21日 申請書類が全部揃い、職場で申請を依頼。
5月26日 渉外課から、もうすぐ取得できるからパスポートを持参せよ、とのメールを受け取る。
6月8日 職場の渉外課にRe-entry Passのスタンプが押されたパスポートが届く。

やっと取得できました。これでやっと引っ越し荷物を発送できます。渉外課からWork Permitなしでは輸入関税がかかるので、Work Permitが発行されるまで日本からの引越荷物の発送は控えた方が良いといわれていたのです。(でも、知り合いになった日本人の方々から、Work Permitは必要ない、職場からのレターが有れば問題ないのでは、との情報を最近入手しました。が、ここまで待ったので、万全を期して取得まで待ちました。)

2009/06/05

Deaton vs. Imbens

Levitt のblog (一ヶ月以上前の投稿ですが) で開発経済学の大御所 Deaton と Harvard の計量経済学者 Imbens のバトルが紹介されてました。フォローしとこ(Deatonの論文Heackman and Urzmaの論文Imbensの論文)。以下議論のざっくりとした要約です。間違ってたら指摘して下さい。

Deatonは、最近の開発経済学のはやりのフィールド実験や、あるいは労働経済学者の操作変数法やregression discontinuity design(訳語がわからん)による因果効果の推定 (impact evaluation)が大嫌いで、すごい勢いで攻撃しています。経済理論に基づかない回帰分析なんて全然役に立たない、もっと理論をもとに実証分析をデザインせよ、とのこと。やり玉に上がっている論文は有名な論文ばかりで、私が読んだときには、なるほどこうすればある政策の因果効果(causal effect)を識別(identify)できるのかと感心してしまったものばかりです。(例えば、Angrist and Lavy の小学校のクラスのサイズと子供の成績に関する論文やAcemoglu, Johnson, and Robinsonの植民地時代に宗主国が導入した制度の違いと現代のその国のパフォーマンスとの関係に関する論文など。)攻撃の焦点は、以下の2点(1)internal validity(2)external validity。(1)は因果効果の推定値が調査対象としている個体群のなかで妥当かどうかという議論で、他方(2)は因果効果の推定値を調査対象外の個体群に対して一般化できるかどうかという議論。Deatonの主張は、(1)に関しては、ある政策の効果を知りたいとき、操作変数法で推定できるのは高々LATE(Local Average Treatment Effect)で、これは本当に知りたいATE(Average Treatment Effect)とかATT(Average Treatment Effect on the Treated)とは一般に異なる。それらが等しくなる為には、沢山の仮定が必要で、そんなもの使いものにならん、もっと理論を用いてその効果が生まれるメカニズムを知ろうとしないと意味が無い、という。また、ランダム化実験(randomized experiment)をしたところで、ATEは推計できるけど、Median Treatment EffectとかQuantile Treatment Effectとか求まらないし、また個体ごとにTreatment Effectが異なる場合、その平均値の分散は自明じゃないから既存論文の多くの帰無仮説の検定も当てにならんし、さらに悪い事に経済学の文脈で理想的なランダム化実験なんか不可能だし、それならこれまで計量経済学が悪戦苦闘して来た識別の問題をクリアしてるとは全くもって言い難い。だから、ランダム化実験による因果効果の評
価なんて大した価値はない、とのこと。(2)に関しては、効果のメカニズムが分からないとランダム化実験だとか操作変数法だとかで、ある環境のもとでその効果を計測しても、環境が違ったらその計測値は役にたたんでしょ、と。

一方、LATEの理論を生み出したImbensはDeaton論文に対して反撃しています。論文のタイトルがイカしています、"Better LATE than Nothing"。Imbensはランダム化実験が可能なら、ランダム化実験から得られる証拠こそ最も信頼できるものだし、そもそも因果効果の識別の分野で、自然実験(natural experiment)を利用した操作変数法とかランダム化実験が浸透してきたのは、構造推定が役に立たなかったからだろ、とLalonde (1986)の論文を引用しつつ主張します。(Lalondeの論文では、ランダム化実験のデータを用いて職業訓練の効果を推定し、その推定値を、同じデータを用いて同様の効果を構造推定(Heckman Selection Model)した推定値とを比較し構造推定による推定結果がいかに加減かを示している。)また、Deatonが言うように、ランダマイズ実験でMedian Treatment Effectを推定できないけど、どんなメソッドだろうと余計な(しかもuntestableな)仮定なしで、そんなもん推定できないだろ、と。さらに、政策策定者が知りたいのは、Deatonが言ってるMedian Treatment Effect とかQuantile Treatment EffectとかといったTreatment Effect(Yi1-Yi0)の分布じゃなくて、Yi1とYi0それぞれの分布だろ、 と。(ここで、Yi1:Treatmentを受けた場合の結果、Yi0:Treatmentを受けなかった場合の結果、i は個体の識別子を表す。ちなみに、ここで議論している問題の元凶は、個体iに関して実際に観察できるのはYi1かYi0のどちらか一方なのに、E[Yi1-Yi0]とかYi1とYi0それぞれの分布を知りたいという欲求から来ている。)External validityに関しては、ランダム化実験が役に立たない訳ではなく、構造モデルを検証するのに使えるよ、だから構造モデルとランダム化実験の組み合わせが有用だよ、と。

開発経済学の分野では、MITのPoverty Action Labが牽引するフィールド実験の異常な盛り上がりに批判的な研究者も多いのですが、Deatonのようにここまで攻撃している論文は初めてではないでしょうか。しかし、Deatonも、経済理論から演繹される理論予測をフィールド実験で検証する、というごく最近の潮流はある程度評価しているようです(例えば、Todd and Wolpine (2006)とか Karlan and Zinman (2008)とか Giné and Karlan (2008)とか)。

学会の最先端のところでは激しい賞賛と批判に晒されて、学問自体が進化している感じがしますね。Deaton のような厳しい批判者もこの分野の発展を後押しするのに貢献しているといったところでしょうか。私がこの分野で生き残って行ける可能性はあるのでしょうか???

以下のはDeatonとImbensの論文で引用されていた面白そうな論文です。

Chattopadhyay, Raghabendra, and Esther Duflo, 2004, "Women as policy makers: evidence from a randomized controlled experiment in India," Econometrica, 72(5), 1409–43.

Todd, Petra E. and Kenneth I. Wolpin, 2006, "Assessing the impact of a school subsidy program in Mexico: using a social experiment to validate a dynamic behavioral model of child schooling and fertility," American Economic Review, 96(5), 1384–1417.

Urquiola, Miguel, and Eric Verhoogen, 2008, "Class-size caps, sorting, and the regression-discontinuity design," American Economic Review, forthcoming.

2009/06/03

Moyo vs. Sachs

Dead Aid の著者 Dambisa Moyo と The End of Poverty の著者 Jeffrey Sacks がアフリカ援助に関して熱いバトルを展開中。最近のSacksのMoyo批判はここ。ちなみに、Will Easterly も援助の発展への貢献に懐疑的なので、Moyo のサポーターに回っている模様。
Moyoはザンビア出身の才媛(HavardでSacksの授業も取っていたようだ)で、アフリカの貧困の援助悪玉説を説く。最近は、滑舌良く援助ダメダメと説くし、容姿もテレビ映えするし Dead Aid 出版以来、メディアに引っ張りだこのようす。 ググるとYouTubeの映像(例えば)が沢山見られるよ。
世銀のアフリカリージョンのチーフエコノミスト曰く「Moyoの言ってる事は当たってる事もあるけど、大概間違ってる」とのこと。
Moyoがあまりにもメディアで取り上げられてるので、援助関係者が躍起になって否定するのも無理は無い。アフリカへの援助が減ったら、自分の食い扶持も減るからね。ってことはおいらの食い扶持も減る???

丁度良い機会なので、援助の発展への貢献を分析したクロスカントリーデータを用いた実証分析(Burnside and Dollar, 2000 AER)を斜め読みしました。Easterlyがイチャモンをつけています(Easterly, Levine and Roodman, 2004 AER)。

やっぱり、クロスカントリー・リグレッションは趣味じゃないわ。