2009/09/03

Field Experiment in Uganda その後

この間ウガンダで始めたフィールド実験第2弾、結構巧くいっているようです。私はプロジェクトが軌道に乗った時点でナイロビに戻ったのですが、携帯やSMSでコーディネーター達と連絡を取り、途中経過を報告してもらってます。今回は初めてづくしのプロジェクトでうまくいくかどうかとても心配だったのですが、嬉しい限りです。質問表のデザインも親分(共同研究者)に誉められちゃったしね。で、実験プロジェクトのさわりを報告しちゃいます。

この間報告したように、化学肥料とハイブリット種を以前からの調査対象の村々に売って回っているのですが、実験プロジェクトを始める直前まで、それらの価格をどうやって設定しようか悩んでました。悩みの種は、需要関数を推計したいので、価格に変化(安く売ったり、高く売ったり)をつけなくてはいけないんですが、どういうグループのレベルで変化をつけるのかってところです。つまり、村レベルで高く売る村と安く売る村を設定して、村レベルの価格の違いで需要量の差を見るのか、あるいは、村の中でも個人レベルで異なる価格を設定して個人間の価格の違いで需要量の差を見るのか、という点です。

前者の難点は、村レベルで価格を設定してしまうと、需要量の村落間の違いが、はたして本当に価格の違いから来ているのか、あるいはその他の村の特性、例えば、立地条件、気候条件、その他に由来するのか、という疑問(計量経済学でいう識別(identification)の問題)が生じてしまう点にあります。この問題は需要に影響を与えそうな特性と設定する価格が相関しないように、ランダムに村を選んで価格を設定すれば回避できる問題なのです(ランダム化実験の長所です)が、そうすると需要関数を村レベルで推定することになります。つまり村落間の需要量の違いを村落間の価格の違いで説明するということです。パネルデータ分析で言う所のBetween推定にあたります。この場合、村の数が推定の精度に大きく影響します。村の数が少ないと、精度が出ません。今回のプロジェクトの対象村は69村なのですが、第1弾の実験で、化学肥料とハイブリッド種を配った村と配っていない村があり、それぞれで需要関数を推計しようとしているので、統計的な検証をしようと思うと非常に心もとない(というか少なすぎる)村落数です。

そこで後者を採用したいのはやまやまなのですが、村の中でどうやって違う価格を設定するのかってのが問題です。同じ村で人によって提示する値段を安くしたり高くしたりできるでしょうか?サイコロやビンゴケージを使って、実験参加者自身にクジ引きをしてもらって、幸運だったら安い値段を、そうでなかったら高い値段を提示するってのも可能ですが、不公平だという人も出てくるだろうし、再販売(安い値段を提示された人が沢山買って、そうでなかった人に売る)の問題も出てくるかもしれません。更にアフリカの農村では公平性(fairness)は非常に重要な規範ですので、不公平だと文句が出るばかりでなく、もっと深刻なもめ事の種を提供してしまうかもしれません。それは避けたい。そういう具合で中々妙案が浮かびませんでした。

ぎりぎりまでどうしようか悩んでいましたが、マケレレ大学のゲストハウスでお気に入りのNile Special(ウガンダのビール)をたっぷり飲んで早寝をし、早起きをした次の朝、良い案を思いつきました。(つづく)

4 件のコメント:

  1. 初めてコメントさせていただきます、昨年授業でお世話になりましたGRIPS Doctor programのIです。hkonoさんのブログ経由で来ました。お元気そうでなによりです。

    当エントリーについて以前、S先生から話を聞いて、どういった実験ができるんだろうと考えてはみましたが、まったく思いつきませんでした。次回のエントリーを楽しみにしています。

    話は変って、参考になるか分かりませんが、Todd & WolpinのDynamic Discrete Choice modelに関する最新のサーベイ論文を見つけました。URLを載せておきます。
    Todd and Wolpin, "Structural Estimation and Policy Evaluation in Developing Countries"
    http://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=1460772

    将来的に同モデルのようなモデルの構造推定などができるようになりたいのですが、今は博士論文でいっぱいいっぱいという状況で、まったく勉強できていません。今後のエントリでモデルについて紹介していただけると大変ありがたいです。

    長々と失礼しました。プロジェクトの成功をお祈りしています。

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  2. Igeiさん、お久しぶりです。初コメントです。有り難うございます。ちょっと嬉しいかも。紹介頂いたTodd and Wolpin読んでみます。博士論文は何をやられているんですか。アフリカに関係あったら内容を是非教えて下さい。

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  3. お返事ありがとうございます。
    博士論文はガーナの企業経営者トレーニングプログラムのインパクト評価について書く予定です。このプロジェクトでは、プログラムの参加者をランダムに選んでいる(らしい)ので評価しやすいのかもしれませんが、理論モデルなしにただ評価しましたというのでは説得力がないと思うので、今はentrepreneurとmanagerial abilityに関するモデルについての先行研究を読みあさっているという感じです。

    あとインパクト評価以外に、フィールド実験ができないかどうかも模索中で、今度のエントリのようにフィールド実験を行ううえでどんな工夫をしているかについて生の声を聞けるのは本当にありがたいです。

    データ収集にはこの半年以内に行く予定です。

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  4. そうですか。Igeiさんもガーナのプロジェクトやるんですね。確かDean Karlanのペルーの論文だとビジネスのトレーニングは大した効果が無かったと言っていたと思いますが、ガーナのプロジェクトでは効果出てるんでしょうか。Igeiさんの実験では何をやられるんでしょうか。そのうちお話聞かせて下さい。

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